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第141話

 忘れもしない――これはあの日――二十年前の卒業式の日に河川敷で撮ったショットに間違いない。今、この巨大スクリーンに映し出されているのは、紛れもなく二十年前の卒業式の日の自分たちの姿だ。  しかも、現在の動画がセピア色で作成されていたのに対して、自分たちの昔の写真は色鮮やかなカラーで構成されている。普通に考えれば色の選択は逆になるのだろうが、このプロモーションビデオの映像は、正反対に作られているのだ。まるで、二十年前の三人の男たちの絆は今も色褪せないでここに在ると言われているようで、目頭が痛くなるほどの感動が氷川の全身を貫いた。 「覚えてるだろう? あの日、河川敷で撮った僕らの写真。遼平と紫苑がね、どうしてもこれを使いたいって。お前さんが自分たちにくれた二十年分の思いには到底及ばないけれど、心を込めて贈りたいって言ってね。彼らの仲間たちにも事情を説明して、そうしたら皆喜んで協力してくれたのさ」  止め処ない涙を拭うこともできずにスクリーンに釘付けのままの氷川に、隣から真っ白なハンカチが差し出される。  セピア色の懐かしい動画からカラーで切り取られた自分たちのショットと共に歌が終了し、場内からは割れんばかりの拍車が湧き起こった。その大声援に乗じて氷川は帝斗から受け取ったハンカチを握り締め、それで自らの双眸を覆いながら泣いた。  嗚咽を隠すこともせずに、声を上げて泣き濡れた。まさに男泣きを通り越した、抑えられない二十年分の感情をそのままにしたような号泣であった。 「……バカ……野郎共が……。こんな、こんな……」  カネ、一之宮――――俺は今、本当に言葉にならないくらいのすげえ宝物を貰ったぜ……!  お前らと遼平に紫苑、そして奴らを支えてくれた帝斗と倫周、清水に橘。春日野と徳永も。それに俺らの後輩である桃陵と四天の若い奴ら。  こんな嬉しい贈り物はねえよ――  今日まで生きてきて良かった、諦めねえで良かったって。今、心からそう思えるぜ。  辛いことだらけだった。悲しくて寂しくて、いっそ気が触れちまった方が楽なんじゃねえかって思うくらい苦しい日々の積み重ねだった。  この二十年――  でも報われたよ。お前らの気持ち、届いたぜ。しっかり受け取ったぜ――!  ありがとう。本当に今、俺はめちゃくちゃ幸せだ。  大声援に湧く場内の――ステージの上からこの欄干までは確かに距離がある。暗くて互いの顔などはっきりとは見えない。  けれども遼平にも紫苑にも、そして彼らと共にステージ上に立つメンバーたちにも、氷川のこの思いが届いていたに違いない。  花吹雪の舞う、切なくて愛おしい春の日は、今まさにやわらかな朧となって天高く吸い込まれていく。それに代わるように萌える若葉は驚くほどの速さと強さで青葉へと育まれてゆく。  緑萌える――至福の初夏の光が降り注ぐ、そんな季節であった。 ◇    ◇    ◇  その後、初のライブで大成功を収めた遼平と紫苑のユニットJADEITEは、順調にチャートにも顔を出すようになり、ミュージシャンとしての彼らの日々も本格的に歩み始めようとしていた。  ライブの際に手助けしてくれた春日野と徳永も、本格的にメンバーに加わることとなった。それぞれの進路的には、元々音楽一家である実家の稼業を継ぐつもりでいた春日野は、特に就職という形での企業等への進路が決まっていたわけではなかったから、スムーズにメンバー入りを決めることが叶った。  徳永は現役の音大生なので学業は続けるが、それと並行してJADEITEとしての道を歩むことに決めたのだった。彼もまた、春日野と一緒に歩める人生が、心から嬉しそうであった。  そしてベテラン組のリードギターとベース、清水剛と橘京は言うまでもない。遼平と紫苑と共にバンドが組めるなんて夢のようだと、当然の如くメンバーへ加入となった。  こうして六人で歩み出す新生JADEITEは、それぞれが本当に幸せに満ちあふれている中、好スタートを切ったのである。

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