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第4話

賢一の唇は薄くて、だけど下唇だけちょっとぷっくりしている。その唇が、耳たぶにそっと触れてくる。短い溜息が肌をくすぐった。腰骨に手をかけると、思い切ったように首筋に顔を埋めてきた。しゃりしゃりと掌に心地よい髪をなでて、シーツの上に痩躯を横たえる。  「めがね、またはずし忘れてる」  かすれた声で囁かれ、眼鏡が取り去られる。目の前の賢一の表情が途端にぼやけた。  「ケンちゃんの顔が見えないじゃん」  取り返そうと手を伸ばすも、彼は返してくれない。  「お前が近視でよかったよ、ほんと」  大胆に唇が重なり、それから恥ずかしそうに舌先が舌先に触れた。    こういうの、はじめてなんだ。手間かけてごめん。  2年前、あの秋の夜、賢一は涙声で言った。腕で顔を隠していたけど、唇が震えているのは見えた。    多分今もまだ、うしろだけでは気持ちよくなれないのだと思う。俺はべつにこっちのセックスはなくていいんだけど、賢一はねだる。それでもいれれば気持ちよくなって動いてしまうし、賢一も入った状態で先っぽをこすってあげると本当にかわいい声を出す。  「ケンちゃん。顔見せてくれないと、ココ触るのやめちゃおうかな」  「見えないくせに」  「見えるよ。目が慣れてきた」  顔を隠す枕を取り上げ、床に放る。賢一はたぶん悔しそうに俺をにらんでる。枕を顔に押し付けていた両手は所在を失い、片手はそのままシーツに放り出されもう片方は小さい膝小僧に置いていた俺の手に重なった。そうして今夜も、「まだいかない、いかない」と嗚咽まじりに言いながら、先っぽをくるんでいた俺の手をよごした。  ふうふう息をしながら、手の甲でにじんだ涙をぬぐった賢一は、ちょい、と手招くしぐさをする。俺はそれに応じて、くったりしている彼に覆いかぶさった。  それから俺が終わるまで、彼は子犬みたいなひたむきなキスをし続けた。    「ケンちゃん可愛い。大好き」  「まさ、まさ」  賢一が、肩甲骨に手をまわしてしがみついてくる。その手をはがして、掴んで、シーツの上でぎゅっと握る。  「まさ、俺、こどもが欲しい」

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