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第5話

 なんだったんだろう、あれは。  居間に置いている電波時計を確認すると、時刻は11時を過ぎていた。持ち帰った仕事をひと段落させてコーヒーを入れなおす。なんとなくスマホの画面をスクロールしながらマグカップに口をつけた。  「あぁぁん、あかちゃんできちゃうぅぅ」  キュレーションサイトを眺めていると、エロWEB漫画のバナー広告が目に入ってきた。幼い外見に大きすぎるおっぱい、の女の子が犯されているシーン。あまりに露骨で滑稽でさえあり、ヘテロの男はこんなんに反応すんのか、と疑問だ。  「……でも、こういうことなの?」  こどもが欲しい、とつぶやいたあと、賢一は口を一文字に結んで、こっちに背中を向けて丸くなってしまった。  「ケンちゃん?」  「いやその、なんだ。リップサービスだ」  「えぇぇ」  シャイなケンちゃんが、興奮していたとはいえリップサービスであんなことを言うだろうか。「ねぇねぇケンちゃん」と何度か真意を尋ねようと背中をつんつんしてみたが、無言で振り払われて終了した。そして、8時頃目覚めてみたら賢一はもうおらず、代わりに冷蔵庫の中にやたらと豪華な朝ごはんが用意されていたのだった。カフェタイムからのシフトだから出勤はもっとずっと遅いはずなのに、と寂しく思いながら朝ごはんを食べて掃除をし、病児保育登録説明会の配布用レジメづくりをしている土曜日のお昼どきだ。    賢一は、言わない、と決めてしまったことはもう絶対に口にしない。彼の結構固めな殻ごと好きになったし、これからずっと一緒にいるため、お互い譲れない領域を尊重することは大切だ。でもあの一言は、うわ言のようでありながらもどこか切実で、実現は不可能だとしても二人で話しあいたいと思う。    ―なにを?  もしこどもがいたらこんなことをしてあげたいよね、あそこに連れてってあげたいよね、という想像を?  ハリウッドスターみたいに、養子もらったり代理母に産んでもらったりが、日本でもできたらよかったのにね、という慰めあいを?  生まれ変わったらまた一緒になって、そのときはいっぱいこどもつくろうね、という絵空事を?  ―それでいいのか?それで、賢一のあの震える声は毎日の色々に埋もれて紛れてきえていく?  意図を聴くべきだと思う。たとえ彼がどれほど恥ずかしがって怒って、あるいは拒絶したとしても。

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