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第6話

「あさごはん、おいしかったよ  ごちそうさまでした」  水分補給のための2分だけの休憩にスマホを見ると、正道からラインが入っていた。ひらがなだらけとか、お眠かよ、と思ってひとりでちょっと赤面する。  とりあえず、あのことで気持ち悪がられてはないみたいだ、よかった。  「ふきさん、ケンさんがまたカレピッピのラインににやつきながら神聖なキッチンに戻ってきました」  「うるせ。手を動かせタコ」  「動かしてんじゃないすか」  「うーん私もう他人の色恋に興味ないからさ~。毎度その報告いらないよヤスさ~」  あもしもしヒラタさん?お疲れ~あのさーケンちゃんがよくわかんないけど朝からきて働きたそうにしてんだけどさ、ヒラタさん今日いそがしんだよね?どうする休みにしてケンちゃんに通しで頑張ってもらう?うんわかった、よかったね。じゃねー失礼しまぁす。  という感じで芙季子さんがヒラタ氏に電話で話をつけてくれたおかげで、賢一は朝からずっと、余計なことを考えずに働き続けている。ランチのラストオーダーの時間を過ぎたもののまだ席は8割がた埋まっているが、やっとどうにかスタッフが順番に一息ずついれる余裕が生まれた。賢一と入れ替わりで、調理補助の学生バイト安田がキッチンを出ていく。  「3番お願いします」  「はい」  芙季子に短く告げられ、賢一もそれに簡潔に返す。3番テーブルのオーダーはアジアンプレート。キッチンに備えられたタブレットで確認する。会計もオーダーも、この店ではタブレットとスマホに入れたアプリで行っているのだ。  フォーの乾麺をゆがく間に、炊飯器からハイナンライスを盛り付けて冷蔵庫からサラダを取り出し芙季子と夜を徹して考え出したレシピのドレッシングをまわしかける。キッチンタイマーが鳴るとちょうど安田が戻ったので彼にフォーの配膳を指示した。  「ふきさん、オムいきます」  「お願いします」  和風オムライスは正道も気に入りのメニューだが、いまそんなことはどうでもいい。賢一は下唇を噛んで頭の下のほうに浮かんだこいしい面影を封じ込める。

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