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第9話

 彼の頭がリズムに合わせて小さく揺れるのを見つめていたら、ライブが終わっていた。惜しみない拍手に何度もお辞儀をしながら、本日の主役はやはりバックにもどっていった。彼女がいなくなると同時に、観客の心を現実に戻すみたいに店内の照明が通常の状態にもどる。  「おかげさまで、素晴らしい夜になりました。キホさんの歌をもっと聞きたいという方、CDを販売しますのでよかったらいかがでしょうか。では、お忘れ物ないようにおかえりください。本日は誠にありがとうございました。」  珍しく高揚が隠せない様子の芙季子の声をききながら立ち上がる。すると、彼がくるりと振り向いた。  「やぁ、よかったです。なんとなく懐かしいような感じとか、歌詞がちゃんと日本語としてきれいなとことか。」  ろくに聴いてもいなかったくせに「ですね」と調子を合わせてうなづく。すると彼は、すでに立ち上がりどことなくそわそわしている賢一の様子に気がついたようだった。  「そっか、撤収ありますよね。」  「まぁ、お客の前にスタッフなので」  「そうですよねぇ。じゃ、僕はCD買って帰りますね。おやすみなさい」  さらりとした笑みを残し、彼は去っていった。賢一はくちもとにぎこちない笑みを浮かべて会釈をすることしかできなかった自分にがっかりする。気落ちしたまま、常連客と談笑していた芙季子のそばへ寄っていき「片付けます」と申し出ると、彼女は「おっサンキュー」と応じた。
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