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商店街の途中で曲がり、人通りの少ない住宅地に入る。本当ならこのまま商店街を抜けて、大通りに出た方が家からは近い。それでも、こっちの方が通行量も少なくて静かなので通る事が多い。
眠い目をこすりつつ、歩みを進めていると背後から突然「玲くん?」と声がかかる。
驚いて振り返ると、そこには紺のスーツにチェスターコートを着た稔さんが驚いた表情で立っていた。
警察官の格好をしていない稔さんは、物腰柔らかな好青年といった雰囲気で、僕は制服の底知れぬ凄さを思い知る。
「あれ? 稔さん‥‥‥どうしてここに?」
「僕の家この辺りなんだよ。これから出勤だからさ」
行く方向が同じだと分かり、二人で連れ立って歩く。
「こんな早くから大変ですね」
「まぁー基本的に朝8時から翌日の朝8時までが、勤務時間だからね」
事もなさげに言っているが、24時間勤務ということだ。
「えっ! 凄いですね。僕なんてたかが、6時間の夜勤にへばっているのに」
「ちゃんと仮眠の時間もあるから、そんなには辛くないよ」
稔さんが微笑み、僕を見下ろした。僕より少し背が高く、スーツを着ていて分からないが、きっと僕なんかよりもしっかりした筋肉が付いているのだろう。
そうこう話しているうちに、あっという間に見慣れた交番が近づいてきた。
「じゃあ、玲くん。ゆっくり休みなよ」
稔さんが軽く片手を挙げ、交番に入って行く。僕はそれを見送ると、自分のアパートへと向かう。
階段を上りながらふと、交番に目をやると稔さんがこちらを見つめていた。
手を振るのも恥ずかしいので、軽く会釈をして部屋に入る。
想像以上に警察も大変なんだなと、呑気に考えながら。
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