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その日の夜。再び僕は夜勤として出勤した。
帰ったのか帰っていないのか、分からないような疲れた顔の店長が、バックヤードで伸びていた。
僕が挨拶をすると、店長が疲れた顔をこちらに向けて「救世主降臨‥‥‥」とボソボソ呟く。
救世主だなんて大袈裟なと僕は苦笑いをしつつ、ロッカーで制服に着替える。
「悪いんだけどさーちょっと寝てていいかな?」
予想通り家に帰らなかったようだ。どこも人手不足なので、それをカバーするのは必然的に店長になってしまう。僕は二つ返事で労った。
「悪いねー。なんかあったら緊急ボタン押して」そう言ってパタリと机に突っ伏してしまう。
同情の目を向けてから僕は入店をすると、夕方勤務の由梨《ゆり》ちゃんから引き継ぎを受ける。
「矢崎さん。夜勤になっちゃったんですね。なんだか寂しいです」
由梨ちゃんは大学一年生で、夕方勤務の時に一緒だったので顔馴染みだ。
ショートカットの黒髪で、大人しそうな印象とは裏腹に、意外によく喋るし冗談も言う。
「口が上手いねー。だからって、何も買わないけどね」
僕はいつものように軽口を返すと、由梨ちゃんもちぇっと舌打ちをしてお疲れ様でーすとバックヤード に下がっていく。
僕がレジで支払い用紙を纏めていると、着替えを終えた由梨ちゃんが商品を手にこちらに向かってくる。
「あーぁ、今日は来なかったな」
「誰が?」
僕は由梨ちゃんから渡された商品を打ちながら、言葉を返す。
「矢崎さんがこのコンビニに来たぐらいからかなー、凄いイケメンの警察官が来るようになったんですよ」
「へぇー全然気づかなかったな」
夕方は学生がこぞって利用することも多く、あまり周囲を気にしてる余裕がなかった。
警察官立ち寄り所とステッカーを貼ってあるぐらいなんだから、来たって不思議ではない。
「早く夕勤に戻って来てくださいね。では、お疲れ様でーす」と笑顔で商品を受け取ると帰って行く。
僕は由梨ちゃんの後ろ姿を見送る。由梨ちゃんの変わらないハイテンションな姿に、僕は思わず苦笑いがこぼれてしまう。
視線を手元に戻すと、僕は業務の続きに戻った。
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