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気づくと深夜2時を過ぎていて、お客さんは誰もいない。
納品されたおにぎりを出していると、自動ドアが開き店内に軽快な音が鳴り響く。
「いらっしゃいませ」と声をかけて振り返ると、制服を着た稔さんが笑顔で立っていた。
「えっ! 稔さん、何でここに?」
「ちょうど休憩時間でさ、頑張ってるかなと思って来ちゃったんだよね」
僕は驚きのあまり、穴が空くほど稔さんを見つめてしまう。
「そんな顔で見つめないでよ。たまたま通りかかっただけだからさ」
稔さんが困った顔で視線を逸らす。
「すみません‥‥‥」
僕は謝罪しつつも、自分が働いてるところを見られるのは恥ずかしいと、胸の動悸が速まり顔が熱くなる。
僕の様子を不思議そうに見つつ、稔さんはお腹空いたと言いながら、棚の間を移動していく。
僕は気持ちを切り替えて、レジに立ち稔さんが来るのを待ち構える。
なんだか凄く不思議な気分で、なんで稔さんがわざわざ来てくれるのか疑問ばかりが湧き上がる。
「じゃあーこれで、お願いします」
商品を抱えた稔さんがレジに来たので、僕は対応する。
「明日も仕事?」
稔さんが僕の手元を見ながら問いかける。
「いえ、明日は休みです。 流石に3日連続はきついですからね」
「そうなんだ。僕も、明けから次の日まで非番なんだよね。良かったら遊びに行ってもいいかな?」
まさかの誘いに僕は驚く。知り合ってまだ日も経ってない。
「‥‥‥だめかな?」
稔さんが不安げな表情で、僕の言葉を待っている。
「あっ! 大丈夫ですよ。ただ、明日の昼過ぎに友達が来るので、夜9時過ぎからでもいいですか?」
どうせ将希は夜には帰ってしまうだろう。それに、稔さんも仮眠を取ってからの方がいいのではと、僕は呑気に考えた。
「僕は大丈夫だけど‥‥‥。そんな遅くにお邪魔して迷惑じゃない?」
「一人暮らしの強みですからね。稔さんが大変じゃなきゃ僕は全然構いませんよ」
初めて夜遅くまで人がいるのだと思うと、心が沸き立つ。
「じゃあ、明日の9時過ぎにそっちに行くね」
笑顔でそう言い残し、僕から商品を受け取ると店を後にする。
「ありがとうございました」と僕はその背中に声を掛ける。
明日楽しみだなーと久々に感情が高ぶり、眠気も吹き飛んでしまうほど僕は浮かれていた。
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