どんなに仲の良い友達だからって、「僕は昨日男の人に抱かれました」なんて言えるはずもない。 　稔さんが来たから、ちょっと付き合いでと言葉を濁す。 「稔さんって、あの警察官？」 　将希が不機嫌そうに尋ねてくる。 「そうだけど。僕が何も用意してなかったから、稔さんが気を利かせて持って来てくれたんだよね」 　僕は後ろめたくて、視線を合わせることが出来ず俯く。 「ふーん。そう言えばさ、それ何？」 　 将希が僕の首元を指さす。もしかして、稔さんが痕を残したのかもしれない。僕は慌てて首筋を抑える。 「‥‥‥玲はほんとに馬鹿だな」 　僕は血の気が引いた顔で、将希を見る。こいつ、カマかけたのか‥‥‥。将希は一瞬悲しそうな顔をしたけど、いつもの呆れ返った表情に戻る。 　もしかして、僕に男の恋人が出来たと思っているのだろうか。 「いや、稔さんとはただの友達だよ」 　僕は必死にフォローする。それなのに将希は傷ついた顔をするだけで、気まずい空気が流れる。 「あのさ‥‥‥」 　将希は何を言い出すのか、僕は緊張で目眩がしてくる。 「友達同士なのに‥‥‥抱き合うのか？」 　僕は何も言い返す事が出来ず、項垂れる。言い返したところで、また 将希に痛いところを突かれるだけだろう。 「帰る」 　そう言い残して将希は部屋から出て行ってしまった。 　僕は止めることも出来ず、玄関の扉が閉まるのを黙って見つめた。