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その日の夜勤は全く身に入らず、僕はぼんやりとしたまま仕事をこなしていく。
店長が相変わらず、瀕死の状態だったので僕は心置きなく上の空でいられた。
昨日と同じ時間になると、稔さんがまたやって来た。僕の顔を見るなり、驚いた表情で詰め寄ってくる。
今日は黒のピーコートに水色のチェックシャツ、黒のパンツがすらっとした体格によく似合っていた。
「どうしたの? 顔色が悪いようだけど」
昨日の事など無かったかのように、普通に僕の顔を覗き込む。
「稔さんこそ、こんな時間に起きてて大丈夫なんですか? 明日仕事じゃないですか?」
僕は少しムッとして、口調が淡々としてしまう。
昨日のことが無ければ、僕は普通に将希と喧嘩せずにいられたのだ。八つ当たりに等しいと分かっていたが、笑顔を作れずにいた。
稔さんは驚いた顔をして、「機嫌悪いなー」と苦笑いをした。
「そんなに‥‥‥嫌だったの?」
稔さんが目元を伏せて切なげに問いかける。僕はさすがに、ハッとして罪悪感が湧き上がる。
そもそも僕があんな風にならなかったら、稔さんはそんな事しなかったはずだ。僕が誘ったようなものなのに、怒るのは筋違いだろう。
「す、すみません‥‥‥。ちょっと友達と喧嘩しちゃって、気分が落ちてただけです」
僕は慌てて謝る。稔さんは表情を和らげ、「気にしないで」と優しく言ってくれた。
こんな優しい人に僕は何て事をしたんだと、胸が苦しくなる。
「今度、夕飯でも食べに行きませんか?」
この間の失態を取り戻そうという気持ちと、稔さんに対する罪悪感から僕は提案を持ちかける。
「良いのかい?」
稔さんが不安そうな表情で、上目遣いに僕をみる。
「大丈夫ですよ。今度は気をつけますから」
稔さんは満面の笑みを浮かべると、それじゃあまたねと、その場を立ち去って行く。
稔さんが、僕の発言に一喜一憂している姿はなんだかむず痒い。それでも、将希の事で落ち込んでいた僕の気持ちは、ほんの少しだけ晴れた。
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