20 / 90

20

 その日の夜勤は全く身に入らず、僕はぼんやりとしたまま仕事をこなしていく。  店長が相変わらず、瀕死の状態だったので僕は心置きなく上の空でいられた。  昨日と同じ時間になると、稔さんがまたやって来た。僕の顔を見るなり、驚いた表情で詰め寄ってくる。  今日は黒のピーコートに水色のチェックシャツ、黒のパンツがすらっとした体格によく似合っていた。 「どうしたの? 顔色が悪いようだけど」  昨日の事など無かったかのように、普通に僕の顔を覗き込む。 「稔さんこそ、こんな時間に起きてて大丈夫なんですか? 明日仕事じゃないですか?」  僕は少しムッとして、口調が淡々としてしまう。  昨日のことが無ければ、僕は普通に将希と喧嘩せずにいられたのだ。八つ当たりに等しいと分かっていたが、笑顔を作れずにいた。  稔さんは驚いた顔をして、「機嫌悪いなー」と苦笑いをした。 「そんなに‥‥‥嫌だったの?」  稔さんが目元を伏せて切なげに問いかける。僕はさすがに、ハッとして罪悪感が湧き上がる。  そもそも僕があんな風にならなかったら、稔さんはそんな事しなかったはずだ。僕が誘ったようなものなのに、怒るのは筋違いだろう。 「す、すみません‥‥‥。ちょっと友達と喧嘩しちゃって、気分が落ちてただけです」  僕は慌てて謝る。稔さんは表情を和らげ、「気にしないで」と優しく言ってくれた。  こんな優しい人に僕は何て事をしたんだと、胸が苦しくなる。 「今度、夕飯でも食べに行きませんか?」  この間の失態を取り戻そうという気持ちと、稔さんに対する罪悪感から僕は提案を持ちかける。 「良いのかい?」  稔さんが不安そうな表情で、上目遣いに僕をみる。 「大丈夫ですよ。今度は気をつけますから」  稔さんは満面の笑みを浮かべると、それじゃあまたねと、その場を立ち去って行く。  稔さんが、僕の発言に一喜一憂している姿はなんだかむず痒い。それでも、将希の事で落ち込んでいた僕の気持ちは、ほんの少しだけ晴れた。

ともだちにシェアしよう!