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 何日間も将希から連絡が来なかったのは初めてで、僕は不安に駆られる。  いつもだったら、過保護な親のようにちゃんとご飯食べてるかとか、寝坊してないかと二日に一回はメールが来ていた。  僕はもう子供じゃないのに、と思いながらも将希の好意を素直に受け取っていた。  だからと言って、僕から連絡をするきっかけが見つけられずにいた。  手に持ったグラスを揺らしながら、僕は思い悩む。すでに、氷が溶けていて烏龍茶が水っぽく見える。  店内は少し混雑していて、ガヤガヤと人の話し声や笑い声がBGMのように聞こえていた。 「玲くん、上の空だねー友達のこと考えてるの?」  ハッとして顔を上げると、稔さんは優しく微笑みを浮かべて僕の顔を覗き込んでいた。  今日は僕から誘って食事に来ているというのに、僕は上の空だった。 「いえ、この鍋美味しいですよね? 寒い時期に丁度いいかなと思って」  僕は取り繕うように、稔さんに笑顔を向ける。  目の前には、乳白色の鍋が半分ほど減った状態で湯気を立てていた。  このお店は僕が以前に、将希に連れて来てもらった居酒屋で、鍋料理が豊富にあるお店だ。  稔さんはお酒が好きなようだし、僕もここの特製白湯鍋が好きな事もあって決めた。 「僕も鍋が好きだから嬉しいよ。お酒も飲めるしね」  稔さんが口元を綻ばせ、グラスに口を付ける。大人っぽくビールを嗜む姿に、ビールなんて苦いのによく飲めるなと僕は少し羨ましく思ってしまう。 「そういえば、稔さんは地元はこの辺ですか?」  僕は実家から大学まで通えなくはないが、1時間ほどかかってしまう。そこで、独り立ちも兼ねて一人暮らしをしていた。 「‥‥‥そうだよ。あっ! ごめんね、ちょっとお手洗い行ってくるね」  そこで話が途切れてしまい、僕は再び上の空へと戻っていく。 

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