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稔さんが戻ってきて席に着いたので、僕も意識を稔さんに戻す。
「そういえば、玲くんは恋人とかいないの?」
稔さんがニヤニヤしながら聞いてくる。突然の問いに、僕はびっくりして稔さんを見つめる。
「今はいませんね。今はですよ」
僕は強がって、「今」の所を強調する。高校生の時の彼女は、卒業する前に別れてしまった。
「そんな稔さんこそ、彼女なんて選り取り見取りなんじゃないんですか?」
僕は少し嫌味っぽく、稔さんに尋ねる。
「彼女なんていないよ。好きな人はいるけどね」
「稔さんが好きになるなんて、よっぽどいい人なんでしょうね」
稔さんがじーとこっちを見ていて、僕は恥ずかしくなる。まるで、僕のことを好きみたいじゃないかと戸惑ってしまう。
「そんな見つめないでくださいよ‥‥‥。ちょっと飲みすぎなんじゃないですか?」
動揺を悟られないように、悪戯っぽく言い返す。それでも、僕は頬が熱くなり視線を背けてしまう。
「休みの日ぐらい良いじゃん。そろそろ行こっか」
稔さんが、コートを手に取り立ち上がる。
僕が財布を取り出して、会計しようとすると「大丈夫だよ。さっき済ませたから」と稔さんが微笑む。さっき、トイレに行くと言った時に済ませたのだろう。
僕は慌てて、払いますと言ったけど稔さんは「君たちの、血税でもあるんだから気にしないで」と意地悪っぽく微笑む。
それでも僕が複雑な顔をしていると、稔さんが少し逡巡してから「じゃあー、家にお邪魔してもいい? 飲み足りないから」と言ってくる。
「それなら、僕がお酒買いますよ」
この間の事もあって、家にあげる事を不安がないわけじゃない。
でもそれは、僕がお酒を飲んだからであって、今回はちゃんとジュースにすれば問題ないだろう。
それに、せっかく気を使って稔さんから提案してくれたことを、断るのも気が引けてしまう。
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