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「この間、あんなことになっちゃったけど」
稔さんが真面目な顔で、僕の目を見つめる。僕は恥ずかしくて、思わず俯いてしまう。
「僕のこと嫌いになった?」
「そんなことないです。嫌いだったら会わないですから」
なんだそんなことかと、僕は息を吐き出す。稔さんも表情を和らげ、良かったと安堵した。
「嫌いになるはずないじゃないですか。だって、僕のためにあんなことしてくれたんですから」
僕は自分で言って恥ずかしくなり、頬が熱くなる。でも、そのことで稔さんが悩んでいたのなら、申し訳ない。
「稔さんみたいに優しい人を嫌いになる人いないですよ。僕が女だったら、とっくに告白してますよ」
僕はなんの気なしに呟く。
「なんて言ってくれるの?」
「えっ」
「なんて告白してくれるの?」
僕は不思議に思いつつも、「好きです。付き合ってください」と定型文の様なフレーズを言う。稔さんはしたり顔になり、もちろんだよと言ってきた。
一瞬沈黙が降り、僕は混乱する。ゆっくりと、意味を咀嚼すると僕はやってしまったと、体全体が熱くなった。
そんな僕をお構いなしに、稔さんが僕の肩に手を置く。
「女じゃなくたって、大丈夫だよ」
稔さんが顔を近づけ、唇を合わせてきた。
僕は呆気に取られて、金縛りにあったように動けなくなってしまう。稔さんは僕の頭に手を添えると、吸い付くようなキスに変わる。
逃れることも出来ず、僕はされるがままになるしかない。ほんのりと苦い味が口に広がり、稔さんが飲んでいたビールの味だと分かった。
この状況がシラフな僕には到底理解できず、稔さんが酔っていてこんな事をしているのか分からない。それならそれでショックだなと、内心落ち込んでしまう。
唇を離すと今度は、稔さんが僕の耳元で「ベッドにいこうか」と囁く。
シラフの状態で出来るのか僕は不安になる。元々、女の子としかしたことがないし、この間は酔っ払っていたのだ。
僕が浮かない顔をしていると、稔さんが切なそうな顔で「だめかな?」と問いかけてくる。
「そうじゃないんです。ただ、不安で‥‥‥」
そういうと稔さんが僕を優しく抱きしめる。ほんのり良い香りがして、胸が高鳴ってしまう。
やっぱり僕は稔さんが好きなのだろうか‥‥‥あまり自覚はないけど、何故か断ろうとは思わなかった。
「嫌になったらやめても良いから」
稔さんが耳元で囁く。僕は背中を押される形で頷いた。
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