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 頭をガツンと殴られたとは、この事を言うのだろう。  まさに、僕は鈍器で殴られたような衝撃を受け、頭が真っ白になる。 「どうやって近づいたか知らないですけど、凄い執念ですね」  将希の言葉に対して、稔さんは俯いたまま、何も言わない。それが肯定している事を指していた。  信じられない気持ちと、今までの状況を鑑みると、思い当たる節がなくもない。  バイト先を教えてないにも関わらず来た時。今思えば、僕が出勤する度に来ている気がする。  何より、初めての夜勤明けにお疲れ様メールが来た。夜勤に入るなんて話はしていないはずだ。 「黙ってたって分からないじゃないですか」  将希が詰め寄りそうな勢いで、体を乗り出した。 「‥‥‥時仲くん。玲くんと二人にさせてくれないかな」  稔さんが力ない目で将希を見つめ、懇願するように唇を震わせている。 「ダメですよ。どうせ良い様に話作るんでしょ」  将希は語気を強め、呆れた様にため息を吐いた。  現役警察官を取り調べする大学生という、あべこべなシチュエーションが目の前で繰り広げられている。 「将希‥‥‥僕ね」  僕は耐え切れなくなり、震える唇で訴える。 「稔さんと、付き合ってるんだ」  将希が目を見開く。そりゃそうだ、僕はノーマルだから唖然とするのも無理はない。  将希が一生懸命、僕を守ろうとしてくれるのも分かってる。でも、稔さんを好きな気持ちも事実で変えようがない。 「だから、その、二人にしてほしい‥‥‥」  僕は情けないぐらいに、語尾が弱くなってしまう。  僕の言葉を聞いた将希は、苦しそうに顔を歪めると俯いた。  将希の言うように、稔さんが嘘つくかもしれない。今までの経験上、お人好し体質の僕が騙されない可能性が低いと思う。  だからこそ、将希がいつも傍で見守ってくれていたのかもしれない。  でも、青ざめた顔をしている稔さんが嘘つくとはどうしても、信じたくなかった。 「分かった‥‥‥。ただし、明日俺の家に来て。来なかったら、先輩を警察に突き出すから」  脅しに近い言葉を吐き出し、将希は立ち上がると部屋から出て行ってしまう。 「‥‥‥本当に良かったの?」  将希が出て行った後、稔さんが僕の様子を伺うように見つめてきた。  後で将希に何言われるか、内心僕は怯えていた。それども、稔さんの口からちゃんと説明して欲しかった。 「将希があんなに怒ってるの、初めて見たんです。ずっとあの調子だと、僕の方が萎縮しちゃうから」  人が怒られてるのを見るのは、気分が良いものではない。ましてや、好きな人なら尚更だ。

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