バイト先に着くと、「うわっ！　ひっどい顔」と口々に言われてしまう。 　店長は唖然とした顔で僕を見つめた後、「マスクしてマスク」と慌てて引き出しからマスクを取り出し、由梨ちゃんは「私の伊達眼鏡貸しますね」と鞄を乱暴にかき回し始めた。 　そんな好意が有り難くて、僕は余計に泣きそうになる。 「何があったか知らないけれど、元気出してね。うちの救世主なんだから」 　店長がクマのある目で、優しく僕を見る。由梨ちゃんは「ジュース買ってあげますから」と優しい口調で、僕を労ってくれる。 　僕はいいバイト先に入れて幸せだなと、大袈裟だけど思えてならなかった。 　黒縁眼鏡にマスクと、花粉症対策に近い格好で入店をする。こういう時に深夜勤務だと、お客さんも少なくて助かる。 　由梨ちゃんは宣言通り、ジュースを買って僕に渡すと帰って行った。僕は有り難く頂き、今度奢る約束をした。 　いつもの時間になると、案の定制服姿の稔さんがやってきた。 「……大丈夫？」 　僕の姿を見て、複雑そうな表情を浮かべている。 「酷い顔で売り場に出れませんから」 「‥‥‥そうだよね。ごめん」 　稔さんは少し気まずそうな顔で俯いてしまう。 「大丈夫ですよ……。それより、明日会えませんか？」 　稔さんの発言といい、将希のことも気がかりだった。 「良いのかい？」 　稔さんが驚いた顔で、僕を見つめる。さっきは暗いところだったので分からなかったが、稔さんの顔色もあまり良くなかった。 　僕だけでなく、稔さんも悩んでいたのかと思うと、胸を締め付けられてしまう。 　僕が頷くと、稔さんの表情が和らぎ、そそくさと買い物をして帰っていく。 「あの人よく来るね」 　突然の声にびっくりして振り返ると、店長がバックヤードから顔を出していた。 「玲くんの知り合いなんでしょ？　警察官と友達だなんて、うちのお店の防犯対策になって有難いよ」 　やっぱり救世主だねと言い残すと、再び引っ込んでしまう。 　友達じゃないんですけどね、と僕は苦笑いをして心の中で突っ込みを入れた。