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「お腹空いてきましたね。何か食べに行きますか?」
しんみりした雰囲気になってしまったので、僕は稔さんの背中を優しく叩く。
稔さんが「そうだね」と言って僕から離れる。その表情は、とても嬉しそうに顔を綻ばせていた。
家の近所のファミレスに移動した僕たちは、少し混み合った店内の席で向かい合っていた。
「それにしても、急すぎません?」
僕はパスタをフォークで突っつきながら、問いかける。
「周りがさ、異動し始めちゃって。僕もそろそろ、やばいなって不安で」
稔さんもトマトパスタを、綺麗にフォークで巻き取りながら答える。
「‥‥‥今まではさ、何かと理由を付けて君を見守る事も出来たけど」
僕はギョッとして稔さんを見る。やっぱり、無理して追いかけてきてたのか。稔さんは浮かない表情で僕を見る。
「もし、県警とかに移る事になったら、そうもいかなくなるだろ。だから、そばに居てくれれば安心するから‥‥‥」
急でごめん、と付け足す。謝られたところで今更だった。
「もし、僕たちが付き合ってなくて、異動になったらどうしてたんですか?」
僕は呆れた顔で稔さんを見る。
「‥‥‥合間合間に見に行く‥‥かな」
稔さんが視線を彷徨わせる。もう、僕にはお手上げだった。これ以上聞いたら、僕の頭がおかしくなりそうだ。
恋の力はきっと偉大だ。何が正しくて、何が間違っているのかすら分からなくなってしまうのだろう。
僕が好きにならなかったら、稔さんはただのストーカー犯罪者だ。
「で、いつ引っ越せば良いんですか?」
「出来たら直ぐにでも‥‥‥」
様子を伺うように、僕を上目遣いで見上げる。僕の思っていた通りだった。
アパートの更新日はまだまだ先だ。取り敢えず、解約するのに一ヶ月は掛かるし親にも言わなきゃいけない。なんて説明するべきか、僕は思い悩む。
「無理言ってごめん。家賃は僕が払うから、君だけこっちに来るとかダメかな?」
「ダメに決まってるじゃないですか。そんなとこまで、お金使わせられないですよ」
最初こそ、僕より大人っぽいなんて思ってたけど考えが浅はか過ぎる。
「そうだよね」
しょんぼりと肩を落とす稔さんを見て、少し胸が痛んでしまう。
「‥‥‥分かりましたよ。取り敢えず、親に相談します」
結局は僕は折れてしまったと、溜め息を吐いた。
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