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 食事を終えて、稔さんと僕は店を出る。 「今日は泊まって行く?」  稔さんが僕の顔を覗き込む。その表情はどこか、期待に満ちているようにも思えた。 「学校まで少し距離が伸びちゃうで、今日は帰ります」  新居に一緒にいたい気持ちは分かる。でも、明日普通に講義もバイトもあるし、稔さんはやたらと僕としたがるから朝に響いてしまうだろう。 「そっか‥‥‥残念だな」  本当に残念そうな口ぶりで、稔さんが呟く。少しだけ罪悪感が芽生えたけど、僕は心を鬼にする。 「すみません。明日ちょっと早いんで」  僕は申し訳なさそうな顔で謝る。 「まぁ、しょうがないよね。家まで送って行くよ」  稔さんが、気を取り直したように微笑む。  隣に並びながら、僕たちは暗い道のりを歩く。時々、車が僕たちを照らしては通り過ぎて行った。心許ない電灯の光が、ほんのりと道を照らしていて寂し気な雰囲気が漂っている。 「そういえばさ、時仲くんにも言った方がいいんじゃないかな」  唐突に出た将希の名前に、僕は一瞬息を止めてしまう。 「何をですか?」  僕は訝しげに稔さんを見る。 「‥‥‥引っ越しのこと。玲くんの家によく行ってたから、教えておいた方が良いんじゃないかな」  確かに将希に伝えておかないと、いつの間にかもぬけの殻状態で将希も驚いてしまうだろう。  それにしても‥‥‥将希と過ごした、あの部屋を出るのはなんだか切なく感じてしまう。 「そうですね。伝えておきます」  複雑な表情を表に出さないように、僕は無理やり笑みを作る。稔さんはホッとしたような顔で、僕に微笑み返す。やっぱり優しいなと、僕は嬉しさが込み上げてくる。  将希が稔さんとは顔を合わせることは、もう無理だろう。三人で仲良く出来たら良いのにと、僕は切ない気持ちになってしまう。  アパートに着くと、稔さんは部屋に上がること無く帰って行ってしまう。その後ろ姿を見送りながら、何だかんだ流されてるなと苦い気持ちが湧き上がる。でも、悪い事じゃないから良いのかなと僕は思わず頬が緩む。    稔さんと一緒に住む光景を描きながら、僕は玄関の扉を閉めた。

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