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「将希の好きにさせておけば、こんな苦しい思いしなかったのに」
僕はどうしようもないぐらいに、荒れ狂っていた。
自分でも頭の中が混乱していて、黒い渦が回っているように感じる。
ズキズキと痛む喉元が唯一、僕に対する戒めのようで、永遠に続くのならば少しは気持ちも楽になるのかもしれない。
「玲くんがいなくなったら、僕も生きていけないよ」
稔さんも静かに涙を流していた。
そこで僕はハッとした。僕は一体今までに、何人の人を泣かせて来たのだろうか。
将希も泣いていた。稔さんも泣いている。隣人も捕まった際に泣いていた。僕が振った高校の同級生も泣いていた。
ーー僕は本当に最低の人間だ。
自分の未熟さが生み出した結果が、いろんな人を傷つけてきたのだ。
僕が一番被害者のように感じてはいけない。自分は加害者の立場なんだ。裁かれるのは僕であって、将希じゃない。
「稔さん‥‥‥僕が将希に殺してほしいと頼んだんです」
稔さんが赤くなった目を見開く。
「将希を捕まえるなら、僕を逮捕してください」
僕は稔さんの目を見つめる。稔さんのことだから、将希の居場所を分かっているだろう。
「いいかい、玲くん。時仲くんを解放 した以上は君が訴えない限り、こちらはどうする事も出来ない」
僕の肩を優しくさすりながら囁く。
「君が望まないなら僕はこの事は黙ってるつもりだよ。その代わり、もう自分を責めたりしないで」
稔さんが切実な表情で僕を見つめる。
僕は力なく頷く。とにかく、将希が捕まらないのなら僕は少しだけ安心する。
僕のせいで将希が警察に捕まり、将来の道を閉ざされてしまったら、僕はそれこそ生きていけない。
「今から、時仲くんのところに行って伝えてくるよ。君が時仲くんを庇っていたと言えば、下手な真似はしないでしょ」
覚束ない足取りの将希の姿が蘇る。最悪、身を投げてもおかしくない。
僕はまた、全身が震えてしまう。
「大丈夫だよ。僕がなんとかするから。あんまりここにいると、怪しまれるから行くね。玲くんは少し寝たほうがいい」
そう言い残して、僕に軽く口付けを落とすと優しく微笑む。
稔さんが心配そうに、僕から離れると「明日の朝、また来るね」と言い残し部屋を後にした。
僕はベッドに倒れ込むと、気絶したように深い眠りに落ちて行ってしまった。
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