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 六年間の思い出がまざまざと蘇ってくる。  高校の入学式の後、クラスに集まった同級生達と落ち着かない気持ちでそわそわしていた。  新入生代表挨拶で将希を見かけて、端正な顔立ちに知的な雰囲気なうえ、代表挨拶してるということはかなり優秀なのだろう。  高嶺の花のような彼がまさか、僕なんかに話しかけてくるとは思ってもみなかった。話しかけられた時は、淡々とした口調が少し怖かったけど接しているうちに、優しい人だという事が 伝わってくる。  現在に至るまで、こんな何の取り柄もない僕とずっと仲良くしてくれたのだ。それだけでも、良い奴ということが分かる。  あの頃は楽しかった。喧嘩した時もあったけど、将希は怒鳴るでもなく、呆れたように諭すだけだった。  僕が危ない時はいつも、助けてくれた。思い出せば出すほど、涙が止まらなくなってしまう。 「泣かないで。ほら、苺入ってるから食べな」  稔さんが刻まれた苺の部分をスプーンで掬い、僕の口元に運ぶ。  僕は小さく口を開くと、スプーンが入り込んでくる。ヨーグルトの甘さと苺の甘酸っぱさが口の中で広がっていく。 「苺好きでしょ? いっぱい買ってきたからね」  稔さんの優しさが、今は有難い。将希の事は当面は引きづるだろうけど‥‥‥。 「引っ越しはさ‥‥‥このアパートの退去時でも良いからね」  稔さんが少し切なそうな顔で、ヨーグルトをスプーンでかき混ぜる。僕がこんな状態だから、気を使ってくれているのだろう。  家賃を払うから早く来て欲しいと言っていたのぐらいだ、かなり我慢してくれているのだと分かった。 「ありがとうございます‥‥‥顔は出しますから」  僕は稔さんの手からヨーグルトを受け取り、自ら食べ始める。  少しぬるくなったヨーグルトは酸味が増していて、酸っぱかった。

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