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「じゃあ、そろそろ帰るね」
稔さんが作ってくれたお粥を夕飯として食べ終えると、稔さんが切り出した。
僕は一抹の寂しさを抱えつつ、立ち上がる稔さんを見つめる。
「色々とすみません。ありがとうございます」
「良いんだよ。少しだけ顔色がマシになって良かった」
夜勤明けで疲れているはずなのに、僕の為に朝からそばにいてくれた。僕は申し訳なさで、胸を締め付けられる。
「明日、また顔見に来てもいいかな?」
心配そうな顔で僕を見る。
稔さんは明日休みのはずだ。泊まっていくかと思ったけど、稔さんは気を使って言ってこないのだろう。
「大丈夫ですよ」
僕は稔さんの意思を組んで頷く。
本当は少しだけ寂しい気持ちもあった。僕が袖を引けば、稔さんは無理してでも僕のそばに居続けてくれるだろう。
それでも、迷惑かけてばかりなのは良くないと、僕はグッと堪える。
稔さんが優しく微笑み、僕をぎゅっと抱きしめるとすぐに離れてしまう。名残惜しさが、更に胸に湧き上がってしまう。
「じゃあ、また明日ね」
僕は稔さんを玄関まで見送る。
今生の別れでもないのに、稔さんの後ろ姿が見えなくなるまで、僕は玄関に立ち尽くした。
稔さんの優しさに甘えてばかりで、何も出来ないのがもどかしい。
一つ溜め息を溢すと、僕は静かに玄関の扉を閉じた。
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