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 バイトが終わると、その足で稔さんの家に向かう為にスマホを取り出す。  今日は日勤で、夜には家にいるはずだった。  僕は慣れてしまったから良い。でも、はたからみれば、やっぱりストーカーのように感じられてしまうのだろう。  あまりにも続くようなら、さすがに問い詰められてしまいそうだった。それに、稔さんの職場の人たちにも変に思われるかもしれない。  もしかしたら、すでに気づいているかもしれないけど……。 「玲くん」  まさかの声に驚いて顔をあげる。今まさに会いにいこうと思っていた、男が目の前に現れる。 「……稔さん」  僕は呆然として、スマホを持った手を下ろす。 「今日久々のバイトでしょ? 心配になっちゃって」  迎えに来たんだよと、付け足して稔さんが微笑む。 「稔さん……話があるんです」  僕は緊張で、少し声が上ずってしまう。 「僕も話があるんだ。ちょうどよかった」  そう言って、僕の手を握るとアパートに向かって歩きだす。  見られたらまずいなという気持ちもあった。でも、それ以上に、なんて言えばバイト先に来るのを止めてもらえるのか、そのことが頭の中を占めていた。 「玲くん。思い悩んだ顔をしてるね。僕のこと?」  稔さんが沈んだ声で、図星をついてくる。 「稔さん……バイト先で稔さんの事を、不思議に思っている人がいるんです」  ストーカーと疑っているんですよと、率直に言えるほど僕の肝は座っていなかった。 「僕がいるときばかり、お店に来るからって……」  稔さんの歩みが止まる。  僕も、歩みを止めて稔さんを見上げた。  暗い夜道で稔さんの表情がいまいち分かりにくい。  逆ギレされたらどうしようと、少しだけ不安に駆られる。 「迷惑かけるつもりはないと言いながら、迷惑かけてしまっていたんだね。ごめん」  稔さんの沈痛な声音が、住宅街に静かに響く。僕は少しだけ、ホッとする。 「自分でもいけないことだと分かってる。でも、君のことが心配でね」  再び稔さんが歩き出す。僕は複雑な気持ちで、稔さんの手を握り返した。

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