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警察官という職業が想像以上に大変なことはなんとなく分かっていた。
でも、そんな大変さを気付かせないようにしてくれている。
基本的に仕事の話は僕が質問しない限り、自分から話すことはない。
守秘義務があるからかもしれないけれど、鼻にかけないところが好感が持てる。
「僕は大丈夫ですよ。講義のない日にバイトの休みを合わせておきますね」
僕の言葉に稔さんは、ホッとしたように頬を緩める。
「何か要望とかある? 一応、プランは立ててあるけど」
急なことですぐには思いつかない。それに、僕はあんまり旅行とかに行ったりしないので、その辺は疎い。
「稔さんに任せますよ。ただ、あんまり高級にされちゃうと貧乏学生にはきついです」
「お金の心配はいらないよ。こちらで全部出すから」
「それはだめです!」
さすがに僕はびっくりして、稔さんに詰め寄る。
「急な僕のわがままだしね。それに、君もお金出しているようなものじゃないか」
稔さんが悪戯っぽく微笑んだ。
前に言っていた「君たちの血税」という言葉を思い出す。
「そんなの狡いですよ。その一言で全てが解決しちゃうじゃないですか」
僕が拗ねた顔で、稔さんを睨みつける。
「それにね――」
稔さんが僕の耳元に口を寄せる。
「いずれにしても、僕が君を養っていくんだから」
どういう意味か分からず僕は、ぽかんとしてしまう。
稔さんがコーヒーに口を付け、嬉しそうに微笑む。
「ん、さすが玲くんの作るコーヒーは美味しいな」
ただのスティックタイプのインスタントコーヒーを褒め称える稔さんは、相当上機嫌なようだ。
僕は呆れたように、ため息を吐き出した。
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