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 休んだ分の遅れをカバーするように、僕はレポートの提出やバイトを増やしたりと、忙しい日々を送った。  稔さんも、僕のバイト先には顔を出さなくなった。正直、本当に来てないのか僕には分からないけど。  あっという間に連休が明けて、予定していた日が近づいてきた。  稔さんの二日間の連休に合わせて、僕もバイトの休みを取って予定を合わせる。  当日に、稔さんはレンタカーを借りて、僕をアパートまで迎えに来てくれた。  僕はそわそわした気持ちで、助手席に乗り込んだ。  稔さんも何だか緊張した面持ちで、僕と一緒だなと少し可笑しい。  車の運転の仕方で、人の本性が分かるというけれど、稔さんの運転は丁寧で優しい。例えるなら乗り心地の良い、タクシー運転手の様なスムーズなハンドルさばきだった。  いつもの何割り増しもカッコ良く見えて、稔さんの横顔を僕はついつい見つめてしまう。 「あんまり、見つめないでくれよ」  稔さんが困った様に微笑んでくる。 「いつも以上に、カッコいいなと思って」 「なんか照れるな」  僕はだいぶん浮かれていた。いつもなら言わない様な言葉が、自然と口を突いて出てしまう。  高速に入り、車のスピードが一気に上がる。  対向車線にパトカーが走ってくるのが見え、なんだか感動してしまう。 「そういえば、パトカーとか運転するんですか?」 「パトカーは別に試験があるから、それに合格すれば運転出来るよ。ミニパトなら運転出来るし、パトカーは助手席なら乗ったことあるよ」  男子なら一度は憧れるパトカーに、稔さんは乗っているのだ。  後部座席はお断りだが、一般市民が助手席に乗れることはまずないだろう。  隣の恋人は、そんな凄い人なんだと僕はついデレデレになってしまう。 「乗りたいだろうけど、玲くんはお世話になっちゃダメだからね」  稔さんが悪戯っぽい口調で僕に言う。 「はいはい、分かってますよ。お巡りさん」  僕はつい口を尖らせてしまう。  稔さんはそんな僕の顔を、ちらりと横目で見て微笑む。  それが何だか甘酸っぱくて、幸せだなと思ってしまう。

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