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夕方に宿にたどり着くと、想像を絶する様相に僕は唖然とする。
入り口からして、お屋敷の様な竹塀が遠くまで続いていた。柔らかなオレンジ色のライトに照らされ、趣のある雰囲気を醸し出している。
「み、稔さん。本当にここですか?」
明らかに格式が高い雰囲気がある。これはかなり値が張るのではないだろうか。
「うん。君は気にせずに、楽しんでくれれば良いから」
稔さんは微笑むだけで、堂々としている。一方の僕は、驚きすぎて開いた口が塞がらない。
稔さんが先立って、門をくぐる。僕も慌てて、追いかけるも少し足が震えてしまう。
玄関廊が石畳で、ポツポツとオレンジ色の灯りが足元に置かれていて幻想的な雰囲気だ。
圧倒されつつも、稔さんに伴って本館にたどり着く。広い玄関ロビーには、大きな壺に入った白百合や葉物が僕たちを出迎えた。
「ようこそ、おいでくださいました」と愛想よく女将が現れた。着物をきっちりと着こなし、笑顔で迎え出る。
女将に連れられ、木の柱が連なる廊下を進む。
ラウンジも所々にあり、庭の景色を楽しめる造りになっていた。
僕は気が引けてしまう。稔さんが全額持つと言って聞かなかったが、これは割り勘にしたほうが良いんじゃないのか。
バイト代で足りるのか、自信がないけど……。
廊下を何度か曲がり、角部屋に案内される。
部屋は広めの和室だ。テーブルと座椅子が置かれ、奥は襖で閉じられていた。
「お食事は六時頃にお持ちしますので、それまでおくつろぎください」
女将がそう言い残し、立ち去っていく。
「み、稔さん……ここ高いんじゃあ……」
「大丈夫だよ。僕だって馬鹿じゃないんだから」
稔さんが苦笑いしつつ、僕の手を握る。僕は恥ずかしくなって思わず俯く。
「ここは僕を立ててくれないかな?」
「……でも」
「次にそんなこと言ったら……夜寝かせないからね」
思わず、稔さんを見上げる。微笑んでいるが、目がマジだ。
「こういう時、稔さんって狡いですよね」
僕は拗ねた顔になってしまう。
「そんなことより……ここ、気になるでしょ」
いつもより、興奮気味な稔さんは僕の手を引く。よっぽど楽しみにしていたのかと、僕は少し苦笑してしまう。
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