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 服を脱ぎ、ひんやりとした石畳を素足で踏みしめる。  先に全身を清めてから、温泉に浸かると思わずため息がこぼれ落ちた。  まだ夜は冷え込むようで、冷たい風が頬を撫でていく。  僕は体が暖かいので、無敵だなと何だか笑みが溢れてしまう。 「幸せそうで何よりだよ」  稔さんが後に続いて、湯に浸かってきた。二人で使っても、広さに余裕がある湯船はやっぱり贅沢の極みだなと思ってしまう。 「そういえば、稔さんって裸眼なんですか?」  卒アルの写真で、稔さんは眼鏡をかけていた。コンタクトを外しているとこも見た事ない。 「裸眼だよ。どうして?」 「‥‥‥将希の家で、稔さんの写ってる卒アル見たので」  僕は後ろめたく思って、稔さんの顔を見れなくなる。 「‥‥‥あの頃はね、あんまり目立ちたくなくて眼鏡で誤魔化してただけ。少し野暮ったく見せて、大人しくしてれば誰もよってこないだろう」  びっくりして、僕は思わず稔さんを見る。 「前に言ったでしょ? 僕は一つのことに執着すると周りが見えなくなるんだ。その頃はカメラの事で頭いっぱいで、周りと連むとか面倒くさくて嫌だったんだ」 「でも、部活入ってたじゃないですか」 「部活に入れば、暗室が使えるでしょ。部費で道具も手に入るし‥‥‥僕の家は金銭に、余裕があったわけじゃないからね」  稔さんの顔に影が落ちる。僕もなんだかしんみりしてしまう。 「まぁ、今は僕も安定した職についてるからね。これも玲くんに出会えたお陰だよ」  稔さんの表情が穏やかかなものへと戻った。 「就職した事で否が応でも、人と接していかなきゃいけないからね。今では根暗な性格もだいぶんマシになったよ」 ーーそれにね、と稔さんが付け足すように呟く。 「カメラ以上に玲くんに夢中になってしまったんだ。だから、いつ再会しても良いように君に相応しい男になろうと思ったんだ」

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