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「どうせ解くんだし、締めなくても良いのに」
寝室の扉を開けつつ、稔さんがぼやく。
「稔さんって、意外と品がないんですね」
稔さんの遠回しなセクハラ発言に、僕は嫌味を言う。
湯上がりで、熱くなった体を涼ませようと、僕は広縁の障子と窓を開ける。
満月の光が照らす庭には、白い花が咲き誇っていた。僕は思わず体が凍りついてしまう。
小庭に植わっているのは、まさしく将希の写真に映っていた執着の花だった。
写真で見るよりも大きく、僕の身長よりも高い。大きな卵型の葉っぱが、白い花の集合体を囲むように広がっていた。
風に揺られ、「私を見て」とアピールしているように見える。
その光景が月明かりに照らされてより一層、白く艶かしく見えてしまう。
僕は目が逸らせず、足が震える。
――愛は死より強し
将希が言っていた言葉を思い出す。将希は手に入らないなら一緒に死のうと、僕の首を締めたのだろうか。
死よりも上回る愛を求めて……。
「玲くん」
突然、視界が暗く閉ざされる。稔さんが僕の目を手で覆ってきた。
頬に伝う冷たい液体にハッと気づく。いつの間にか僕は涙を流していたのだ。
「将希は‥‥‥本当に僕と死ぬつもりだったと思いますか?」
僕は震える唇を無理やり動かし、稔さんに尋ねる。
「時仲くんの事は忘れよう」
「どうして?」
震える声で尋ねる。そんな簡単に忘れられるほど、僕らの友情は薄っぺらくない。
「僕がいるじゃないか。もう、彼に守って貰う必要はないんだよ」
僕の体を反転させ、稔さんと向き合う形になる。
月明かりに照らされた稔さんの表情はどこか、妖しげに見える。
「ここに座ってて」
稔さんが僕をイスに座らせ、どこかに行ってしまう。
僕は呆然としてイスにもたれ掛かる。
守ってもらうために友達をやってたんじゃない。そう反論したいのに、言葉が出てこない。
将希は僕をいろんな事から、守ってくれたのは確かだ。じゃあ自分は将希になにをしてあげた?
何もしてあげられなかったじゃないか。将希が僕に恋心があったなんて気づかずに、将希に甘えてばかりだった。
僕は深い罪悪感で吐き気と目眩がしてくる。
「玲くん」
僕の気持ちを知ってか知らずか、戻ってきた稔さんが僕の目の前に跪く。
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