69 / 90

69

「僕だけを見て」  囁くような稔さんの言葉に、僕は顔をゆっくり上げた。僕を見つめる稔さんを、ぼんやりとした目で見つめ返す。僕とは裏腹に、優しく幸せそうな表情で微笑んでいた。  稔さんの熱い手が僕の左手を取ると、薬指に冷たい金属が通される。驚いて手元を見ると、月明かりに照らされたシルバーの指輪がぼんやりと輝いていた。  今度は僕の右手を取ると、掌に同じ指輪を置かれる。 「僕にも同じようにして」  稔さんが優しく囁く。  僕は頭が混乱して、体が動かなくなってしまう。 「だめかな?」  呆然として固まっている僕を、稔さんが困った顔で見つめる。  稔さんが僕の前に左手を差し出す。この指輪を嵌めてしまったら、どうなってしまうのだろう。  でも、何故か僕は抗えなかった。  僕は震える手で、渡された指輪を稔さんの左手の薬指に通す。 「ありがとう」  稔さんが幸せそうに微笑む。 「……稔さん。どういうことですか?」  僕の声は震えていた。上手く状況が呑み込めていない。 「結婚しよう」 「え?」  突然のことで頭が真っ白になる。 「結婚といっても、日本じゃあ同性婚は認められてないからね。ゆくゆくは、養子縁組を組もうと思って」  話が飛躍しすぎていて、僕は思考が止まってしまう。いつも稔さんの行動には驚かされるが、今回はずば抜けている。 「もちろん、君のご両親にもきちんと挨拶に行くよ。警察官は一応公務員だからね。誠心誠意お願いすれば折れてくれるかも」  恍惚とした表情で稔さんが、僕の両手を握る。 「すぐにとは言わないよ。君も戸惑っているだろうしね」  僕は驚きすぎて言葉が出てこない。  立て続けにショッキングな事が、起きたからかもしれない。 「ごめんね。驚かさせちゃって」  稔さんが立ち上がると、僕の手を優しく引く。ふらつく足で立ち上がると、稔さんに布団に連れて行かれる。  柔らかい布団の上にへたり込むと、稔さんが僕を抱きしめた。 「大丈夫。これからもずっと、玲くんを守っていくからね」  稔さんが僕の背中を擦りながら、耳元で囁く。  一方的に事が運んでいて、僕はどうしたら良いのか分からなくなってしまう。

ともだちにシェアしよう!