時仲くんとは写真部で知り合った。 　僕は当時高校三年生で、小学六年生の時ぐらいから始めたカメラに熱中していた。 　両親が共働きで、僕は寂しさを紛らす様に父のポラロイドカメラであらゆる物を撮るようになったのがきっかけだ。 　自分が見た景色を写真に収める事で、永遠に残しておけるのだと思うと心が震えてしまう。 　小、中学校時代に僕の事を美男子でイケメンなどと、女子が騒ぎ立てているのがとにかく嫌で堪らなかった。 　僕は女子に興味がない。そういうのが嫌で、高校に上がる時は伊達眼鏡をかけて前髪を長めにし、地味な雰囲気を装い続けた。 　必然的に、チャラチャラした男子に女子が寄って行き、僕は平穏な日々を過ごす事が出来たのだ。 　そんなある日、写真部の活動で校庭にある花を被写体に撮影するというお題が上がった。 　僕は一人で校庭に行き、モデルとなる花を探し歩いていた。 　そこに、まだ新しめの黒い詰襟の制服をきっちり着こなし、白い花の咲いている木の前で、カメラを構える時仲くんの姿を見つける。 　入部時の自己紹介の際に、整った顔立ちで優等生然とした挨拶を述べていたのが、印象に残っていた。 　どこか冷めた様な表情の時仲くんが、この時は口元を綻ばせていた。 「この花、好きなの？」 　僕は興味を引かれ、思わず声をかけてしまう。 　びっくりした顔で、時仲くんが振り返った。 　銀縁眼鏡の奥にある、切れ長の目が見開かれている。 「口元が緩んでたからさ。こんな花が咲く木があったんだ」 　僕は校庭に植えられた植物なんて、いちいち把握していなかった。 「‥‥‥ガマズミっていう木なんです。五月から六月頃が開花時期で、今がピークなんですよ」 「綺麗だし、被写体にぴったりだね」 　彼は聞かれた事が嬉しかったのか、少し表情を和らげる。 「まるで、玲みたいな花なんです」 　そう口にした途端、ハッとした彼は苦い顔で俯く。 　花を人に例えるなんてと、僕は怪訝な顔で彼を見つめた。 　彼は慌てた様に頬をほんのり染めると、すみませんと呟く。 　その様子が恋をしている様に見えて、僕は興味を引かれてしまう。 　優等生タイプ且つ、クールな雰囲気の彼の心をかき乱す人物とは、どんな人なのだろうか。 「その子を見てみたいんだけど」 　僕は率直に口に出した、 　彼は慌てた様に「それはダメです」と言うと、逃げる様にその場を立ち去ってしまった。