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「……………なんだそれ、地図?」 「みたいですね~。っていうか、これを置いてった女の人の特徴とかないんですか?」  覗き込んできた先輩にそう聞けば「さぁ」と言われてしまった。でもこの地図、見覚えがあるような気がする。でもどこだろう。  家の近くでは、ないな。 「とりあえず、俺帰りますね。また来週です」  手にしたはがきをプラプラしながらカバンを手に取り、先輩にあいさつをして会社を出た。  秋口と言うことで、ちょっと寒い。俺の言ってる会社は必ずスーツと言うわけではないから、外に出る予定がなければ割とラフな服装での出社も許されている。 「あぁ、でも寒い」 そろそろコートの季節だなぁと空を仰ぐと、空模様も秋だ。陽が落ちるのが恐ろしく早くなった。アパートまでは歩いて行けるからと、とぼとぼと一人歩き始めた。そういえば、狗神はご飯を食べるのだろうか。昨日はコンビニで済ませてしまったけれど、何か作った方がいいのか、そもそも帰ってくるのか。わからない。とりあえず帰ってから考えよう。今日は金曜日だから、ゆっくりできるだろう。そう思って家路を急いだ。 「あれ、」 「おかえり、美琴」 「………………………帰ってくるんだ、お前」  玄関前で黒い着物を着た狗神に遭遇してしまった。なんだ、本当に帰ってくるのか。 「っていうか、なにその葬式みたいな恰好…」 「あぁ、これ?俺はいつもこんな格好。人間みたいにスーツとかはあんま着ん」 ふぅん、と返事をしながら玄関のカギを開けて、部屋に入る。後ろをついてきた狗神は、「お前」と小さくつぶやいた。 「? なに」 「いや、お前、明日休みやろ?」 「まぁ、土日は休みだよ」 カバンを横に置き、靴を脱いでそう答えれば、そうか。と声が聞こえた。 「狗神、一つ言うけど、昨日みたいなことは、しないからな」 そう言い捨ててカバンを持ちリビングに向かう。昨日みたいな、事は。そこまで考えてから、また顔が熱くなってしまう。 「気持ちよかったろ?俺も気持ちよかったし。お前は快楽に弱いってよくわかったし」 あっけらかんと言い放った狗神が、ソファに座る俺の後ろから頭を撫でる。その言葉にむっとしながら振り返り見上げると、なに?と狗神が首を傾げた。 「……………お前にはこう、モラルっていうか………そんな容姿でモテそうなのになんでただ拾っただけの俺に構うわけ?」 「俺、モテそうなんか?そういうのは正直よくわからん」 「いや、だって、男は初めてって事は別に女でもいいんだろ?抱くなら女の方がいいだろ実際の話」 「あぁ、そういう」 納得、と頷いて、狗神が俺の隣に腰かけた。ギシリと沈むソファに、僅かに体が傾く。 「俺みたいなやつに、男女の概念はあまり関係ない。どっちでもいい」 「っなら、やっぱり体目的か」 「違うって、体から落とせば、最終的には心も手に入るやろ?俺は美琴以外に手を出す気はないし、何より俺の本能が美琴を選んでる」 「…………なんか、狗神と話してると疲れる」 「それは酷いな。俺は本当の事しか言わん」 ソファの背に肘をついて、俺の方に体を向けながら狗神は少しだけ眉根を下げた。そんなこと言われたって、だって仕方ないじゃないか。 「俺に、人間的な思考の理解を求められても分からんぞ。俺は人とは違うもんやし」 「なんだよそれ、お前ふざけてんの?」  頭を抱えたくなるようなことを言うなよとソファから立ち上がると、「美琴」と狗神に腕を掴まれた。そのまま引き戻されて、狗神の腕の中に閉じ込められる。 「見てろ」

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