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「そうそう。君はとにかく、早急に身を守った方がいい。何かあった時、君は為す術もなく殺されるだろうから」 柚木さんはふっと笑って、腕を組みながら俺の前にしゃがむと、口を開いた。 「君はただの人間だから混乱もするし、分からないことが多いと思うけど……………でもそうだな。狗神に関わってる時点でこちら側に足を踏み入れてるから………無関係ではないかな?身体、重ねたろう?匂いが移ってる」  身体を、重ねる?一瞬意味が分からなくて首を傾げたが、すぐに理解して思わずうつむいた。って言うか、匂いって、なんだ。狗神のような人には何かわかるんだろうか。犬だから嗅覚がいいとか、そういう、事? 「とにかく、五分だけあげるから狗神に名前を与えてくれる?部屋は出てるから、二人で決めて」  ぽんぽんと俺の頭を撫でて居間のふすまを閉めて出ていった柚木さんに、狗神がホッと息を吐いて俺の髪に口づけた。 「美琴」 「……………とりあえず、聞きたいことがいっぱいあるんだけど、ごめん、仕事、してたんだろ?邪魔してごめん」 狗神の腕から抜け出して、少し頭を下げた。狗神は俺の頭を撫でてから、美琴、と名前を呼ぶ。 「……謝らんでいいよ。美琴が俺を頼るなら、その方が嬉しい」  俺が顔をあげると、触れるだけのキスをされる。にっこりと嬉しそうに顔をほころばせながら笑う。それを見て、なぜだか胸が痛くなった。 「美琴、名前、頂戴」 「――――――――――――…こんな、形でいいのか?狗神は、もっと、ゆっくり、考える、とか、さ。狗神にしてみれば、俺は関わりのない筈の一般人だろ?」 「美琴が好きやって、俺言わんかった?」 すっと低くなった声音にドキリとして口を閉じた。 「俺の言葉は、信じられん?」 「お前の言う好きは、体の相性がいいからって言うのが大前提な気がする。だから、俺は………お前の望む返事を言えない」 「…………美琴」 「だって、………体、だけじゃ、今こんな約束したって、お前が一緒に生きて死ぬって言ったって、俺は信じられないし、お前を好きになれない。一緒に住んでるからそりゃあ気になるし、もう、体の関係も持っちゃったから、無関係じゃないけど、でも、こんなの、」  結局、全部が流れじゃないか。俺の意思も狗神の意思も関係なくて、今のこの現状がすべての原因で、俺があの時、狗神を拾ってなければ。  全然違う人が拾っていたら、その人にも同じような事言うんじゃないのか。 「……………美琴」 「っ、こんなことしたら、俺じゃなくてお前が後悔するんじゃないのかよ!」  もやもやと胸の内を巣食う感情を、俺は飲み込んで狗神をにらんだ。後悔するのは、きっと俺じゃない。  このまま俺といると、狗神が、 「お前がっ、」  俺は自分ができた人間じゃない事を知っているし、特別に仕事ができるわけでもない。全部人並みにこなせるだけの平凡な人間だ。狗神に会わなければ、きっとこの先、何処にでもあるような平々凡々な人生を全うして、死ぬだけの。  だけど、狗神は違うじゃないか。まず、人じゃない時点で俺たちは関わり合うべきじゃなかった筈で、でも、そんな後悔をずっと考えたって仕方がない。俺だってわかってる。 今自分がしなくちゃいけない事も、しないっていう選択肢なんてないんだって、分かっているけど。 「美琴」 ぐるぐる考えて止まらない思考の中、狗神の腕が視界に入ってきて、頬をつねられる。 「いた、もう、何!」 「怒ればいい。文句も言って。いやなら嫌やって、俺にちゃんと言え。じゃないと、抱くのも、好きになるのもやめられない」 「――――は、なにそれ」 「俺は、美琴が好き。だから、お前から名前をもらいたい」 ムニムニと俺の頬をつねり、狗神が分かった?と最後に付け加える。 「もう時間だから、美琴」 「っお前は――――、」 「こんな事にでもならんかったら、名前なんてくれんやろ。美琴は」 「狗神、」 「頂戴」

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