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「ここでこんな話するもんじゃないやろ。後で説明する。とにかく、俺とおったら美琴は危ない」 「――――――は、それで?」 今更離れるっていうのか。こんなところまで連れてきて、散々巻き込んでおいて、今更?  腕を組んで立ち上がり、狗神を見上げると、小さく「そうじゃない」と言われた。 「何が」 「俺のものに、したい」 「………………は?俺のものって、なに」 俺はモノじゃないぞ。と言えば、またそうじゃないと言われた。だったらなんなんだよと睨みつけると、狗神がふっと息を吐いて、俺の頬に手を伸ばす。 「好き」 「っ!」  まっすぐ目を見つめて、今までにないくらい真剣に告げられた言葉に顔が熱くなる。 「ひとめぼれ、と言うか、とにかく俺は美琴を離す気なんて更々ないし、名前ももらった以上は死ぬまで、むしろ死んでも来世でもいっしょにいる」 「重いよ」 「重いくらいがちょうどいいやろ、美琴はすぐに逃げるし、顔に全部出てんのに、分からないっていうし」 「そ、んなに、分かりやすい?」 「すぐに赤くなる」 「ちょっと、まって、これこそここでする話じゃないんじゃないの。ここでほら、なんか罠とか、先輩が出てきたらまずくないか?」  先輩の墓石(のようなもの)の前で繰り広げる話ではない。 「まずくない。それから、ここには来ない」 「は?え?なんで?」 「…………………………神足巴は死んでる」 「は?」  意味が分からないと首を傾げると、狗神が墓石、と指をさした。 「俺が知るかぎり、犬飼巴は殺された。主だった土地神に斬り捨てられて死んでる」 「………だって、先輩は、確かに、」 「それは―――――」  狗神が口を開くと、懐の携帯電話が着信を告げた。狗神は相手を確認するとため息交じりに通話に出た。 「なに」 凄く不機嫌そうな声音に俺はびくっと体がはねる。いつも狗神はあまいから、不機嫌だとか、怒るだとかのイメージがあまりない。二、三言葉を交わすと、携帯電話を切ってまた懐にしまい、俺の手を引いてきた道を戻り出した。 「え、狗神⁉」 「帰ろう。家に柚木がいる」 「は?なん」  なんで家を知ってるんだ。      ◆ 「あ、おかえり二人とも」 「…………はぁ、どうも………」 って、さっきも会ったのに、と言うかどうしてここに居るんだこの人は。なんでここに、俺の家なのに。狗神がいるからわかるんだろうか。 「何しに来た」 「え?暇だったから、美琴くんにちょっと説明と忠告をしに。あと、お前にもね、狗神」  ふふふと笑う柚木さんを招き入れて、リビングのソファに座ってもらう。元々おおきな狗神と柚木さんが部屋に入るとさすがに息苦しく感じる。 「お茶でも飲みます?」 「大丈夫だよ。用件はすぐに済むから」 ニコニコ笑う柚木さんは、正直少し怖い。俺は机を挟んだ向かい側の床に座り、少しばかり高い位置にある二人に視線を向けた。 「……えっとねぇ、まず美琴くん。君の言ってた「神足巴」はもう死んでるよ。おそらく君が知っている彼は「別人」だろう」 「―――は?どういうことですか」 「そういう「意識」と言うか、君たちにわかりやすく言えば憑かれていた。と言うとこになるね。その神足巴を名乗っていた人間も、誰かに、あるいは何かに強い恨みや嫉妬を抱いていたのだろうけど、そこに「犬飼巴」の意識が入った、と言えばわかるかな?」 「………………えっと、……怨霊とか、そういう?類の話ですか?」

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