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「うん」
「俺、お前を拾って、正解だった?」
「正解?」
「…………俺じゃない、別の奴が拾ってたら、狗神はそっちに行ってたんじゃ、ないかって、考えてて、でも、俺本当に、身体だけとか、は、嫌だし、お前がいるのが普通になってて、だけど、ずっと、もやもや、してて、」
ずっと床に置いていた腕を持ち上げて、狗神の背中に回して服をぎゅっとつかんだ。肩に額を押し付けて、ハッと息を吐く。
「お前が、俺の目の前に倒れてなければ、きっと出会う事なんてなかったんだ。だから、先輩の時に、あの刃物を見て、一番最初に思い浮かんだのがお前で、俺、探して……こんなの、都合がよすぎるって、俺だってわかってるんだ」
自分勝手すぎるって。わかってるんだ。そう呟いて、俺は口を閉じた。
「………美琴は、優しいよな」
「――――――――――――――――え」
「俺の方が、どう考えたって自分勝手に振舞ってたのに、俺の心配をしてんの、そういうとこ、優しい」
はは、と狗神が笑って、俺は肩から顔をあげた。少し斜め上には狗神の顔がある。
「………お前は、身体から落とすって言ったけど、どうして本気でその言葉を信じたんだ」
「目を開けて見えた美琴が、欲しかったから。美琴が振り向いて、俺を見た時に全身が沸騰したみたいな感覚がした。だから、欲しくなって、前に百目鬼が言ってた事をおもいだした」
肩に額を預けたままで、顔を少し上に向けると、楽しそう笑う狗神の顔が見えた。
「っ」
「俺みたいなタイプは、一目惚れが多いって百目鬼がいってた」
だから、一目惚れなんだと思う。と狗神は俺に視線をよこしてまた笑う。
「好きやってそう思ったら好きやし、手に入れたいって思ったら何が何でも手に入れたい。俺は自分勝手やし、美琴には迷惑かけるかもしれないけど、俺の傍にずっといてほしい」
「その、百目鬼って人は、なんなの」
「あ――――、めちゃくちゃ面倒なおっさん」
◆
めちゃくちゃ面倒なおっさん。とは。
とにかく、会社に電話したら先輩は退職したと言われて、俺も一週間ほど休みを取ることになった。そして今日、とりあえず狗神と一緒に暮らすことを決意した俺は「百目鬼」と言う人に会わなければいけないらしく、現在そのめちゃくちゃ面倒なおっさんこと百目鬼さんの管理しているマンションの目の前に来ていた。
「ここって、結構有名な場所じゃん」
「そうなん?俺はここに居る時の百目鬼が好きじゃないからここにはあんま来んしよく知らん」
狗神は相変わらず黒の着流しで、俺は私服。
とにかく俺はすごく緊張していた。知らない人に会わなきゃいけない状況なんて社会人だから珍しくもないのに。
「狗神は百目鬼って人が嫌いなのか?」
「……ここで話してると殺したくなる」
「物騒すぎじゃない?」
どれだけ嫌いなんだと、俺はさらに緊張してしまった。
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