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第7話

 目が覚めると、時計は18時を指していて既に授業は終わり、放課後になっていた。ふかふかのベッドの上で寝ていて、いつの間にか移動していたことに気づく。先生が運んでくれたんだろう。  「あ、起きた?」  カーテンを捲ると、座っていたのは高良先輩。唯ちゃん先生だと思っていたから完全に油断していた。なんでここにと疑問に思っていると、考えていることに気づいたのか唯ちゃん先生に譲ってもらったという。譲るって俺は物か。  「俺に言いたいことあるんでしょ?どうしたの、もっかいキスしたい?」  思い切り首を振り、嫌だという意志を伝えるが、あまり話を聞いていないのか顔を近づけてくる。手で抑え引いてもらうが、そういうのは恋人にやるべきだ。いや、正確には俺以外の恋人に。多分先生が、好きだと伝える機会を作ってくれたんだろうが、こんな急に好きだなんて伝えられるわけがない。嘘でも恥ずかしい。  「あの、俺と付き合うって本気?あ、ですか」  「うん」  慣れない敬語を使いながら、即答で帰ってきた返事に、なんて言おうか迷う。真剣な瞳に吸い込まれ、自分の中にも緊張が生まれる。さっきまでこの人に会いたくないとか、近寄りたくないとか思っていたのに、いつの間にかこの人を自分のパーソナルスペースに入れている。  「なんで......」  「さぁ?」  なんでだろうね、と首を傾け、サラリとした髪が柔く揺れる。それを綺麗だと思ってしまった自分が、この人に何を言ったところで何も変わらいのではないかと、そう思ったら、反抗するのが無駄に思えてくる。  「だったらちゃんと好きになってください」  出てきた言葉は俺が愛されたいみたいな言葉だった。何を言ってしまったんだろうと口を抑えたけど、彼は楽しそうに笑っていた。  「うん、わかった」  「話ってそれかぁ」と、優しく抱きしめられるが、それも拒む。好きになってくれるのは、それは、俺があなたを好きになるまでなんだよな。  どこか冷めた自分がそう言って、まだ引き返せると少し手前の分岐点で手を振っている。正直そこまで帰りたい。男だって分かってる。でも俺はきっとこの人を愛してしまう、そんな気がする。なんでって、分からない。この人が俺をなんで恋人にしたのか理由がわからないのと同じように。  絶対に好きだと伝えない。そうすればどんな姿のどんな俺でもずっと俺を好きでいてくれる。友達に嫌われていようと、家族がいなくても、俺が変でも。  そんな覚悟ができたのも先生の“安全地帯を見つけろ”という言葉を思い出したからだ。  5年前。愛着障害であると、そう診断されたのは小学生の時。1歳の頃に親を亡くし、引き取られた祖父母からは俺が両親を殺したのだと、そう言って躾をされて。最後は知らない誰かに手を取られ、施設に連れていかれた。俺みたいな人が沢山いるような場所。みんな優しかったけど、うまく馴染めなかった。また手を引かれ、連れていかれたのは精神病院。嫌な香りが混じったその場所は、居心地が悪かったのを覚えている。それから、主治医の先生には安全地帯を見つけてくださいと言われたけど、きっと、この人がそう。  いつもは近づきたくないと思っていた人との距離が少し心地いいと感じている。そんな気持ちに気づけた自分が少し嬉しかったけど、触れた部分から逃げたいと体が強ばる自分もいた。

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