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第8話
鞄を持ってきてくれていたという先輩にぼそっと礼を言い、それを受け取る。少し考えるように唸った先輩が、俺のカバンを自分の手に取り、反対の手で俺の指に指を絡めた。彼の手はこんなに暑いのにやっぱり冷たくて、周りを気にするより、その温度に気を取られる。保冷剤みたいだ。
「明日、デートに行こっか」
「デート?」
「二人きりじゃないけどね、いい?」
俺の鞄を取るべく、教室に戻った時に、教室にいた女の子達に遊ぼうと誘われたらしい。恋人がいるからと断ったが、その恋人も一緒でいいからと強引に話を進められたようだ。俺が恋人になっているのはもう確定事項らしい。いつも見る強引さから、先輩はそういうものに流されなさそうだが、女の子には甘いようだ。
「灰人のクラスみんな来るみたいだよ。俺のクラスのやつも何人か行くみたいだし。」
初めての名前呼びに少し照れる。保健室に言っている間にかなり大きな話になっていたらしいが、正直気が進まない。でもまぁ、端の方にいればいいか。どうしてもしんどいなら帰ればいいし。
「分かった。行く、ます」
「ほんと?ありがと」
返事の代わりに少し笑うと、くしゃと髪を撫でられ、おでこに軽くキスされる。こんな所で何してるんだと周りを見渡すが、一応誰もいない。それから先輩の方を見ると、目が合ってニヤリと笑うから、すぐに逸らしたが、先輩はそのまま俺の唇にキスをした。
「軽くならいいでしょ」
目を見開いて口を抑える俺の手をペリっと剥がし、再度キスをする。なんでこんなにスキンシップが激しいんだと、困惑しながらも沸き起こる熱にどこかへ逃げたかった。柔らかい感触、目の前の綺麗な顔、腰に回された手、全てが熱くてしんどかった。
「んぅっ、ふ」
軽くならと言ったくせに、舌を入れてくる。嘘つきと腕を叩いたけど、それすら掴まれて何も抵抗出来ない。
離されたのはそれから何回も舌をいれられてヘトヘトになってから。腰が震え、床に尻もちを着きそうになった時、やっと解放してもらえた。先輩のせいでまた腰が抜けたと睨み、唇を手で抑えていると、強く引っ張られ、右手だけで俺を抱え上げる。
「気持ちよかった?」
わざと耳元で囁くその声に腰から寒気が伝って来る。もういやだ、やっぱり離れたい。首を横に振ると、小さく笑う。「嘘つき」と囁いた声にどっちがだと言い返したくなった。
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