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第9話
抱き抱えられたままの格好で、大通りまで出ると、一気に視線が集まってくる。もとより、高良先輩はモデルであり、目立つ存在であるから余計に視線を感じた。
俺だって、間近で見たらドキドキするし、少し掠れた声で名前を囁かれたら胸が恥ずかしくなる。それぐらい端正な顔立ちだから、ほかの人だってそう思うはずだ。優しく綺麗な王子様。だけど、強引で悪魔みたいな魔王様。
「デートの服買おっか。持ってないでしょ」
「Tシャツとかでいいけど」
ズボンの後ろポケットから財布を取り出し、黒いカードを見ている。「よかった、あった」と言ってまた戻していたが、それってブラックカードなのか?
「なんでも買ってあげるから、かっこいいの選ぼう」
ゆっくりと地面に下ろし、俺が歩けるのを確認すると、さりげなく手を引いてエスコートしてくれる。車線側には先輩がいて、たまに人にぶつかりそうになると、大きな腕で引き寄せられる。ああ、これダメだ。女の子ならキュンキュンいってすぐに好きだと言ってしまうやつ。女心なんて分からないが、俺だって今顔が真っ赤になってるに決まってる。頬に手を当てると、やはりほんのり火照っていた。
「はい、ここね」
着いたのは俺でも知ってる高級ブランド。立ち並ぶマネキン達は新しい服を着て堂々と胸を張っている。かっこいいと見ていると、店員さんが高良先輩に話しかけていた。
何話しているのかは分からないが、大量の服を2人で選び始めている。あれ全部買う気だろうか、いや、選んでるだけか。2人から離れ、少し気になったロング丈Tシャツをみる。この白かっこいい。値札をみると1万5000円と書かれていて、そっと服を返した。もしかしてこの店、全部こんな値段か?
「灰人、こっちおいで」
試着室の前にいる先輩まで近づくと、中に入れと言う。靴を脱いで上がれば、今度はこの服を着ろと5着ぐらい渡されて。
「さっきまで見てた服、気に入った?持ってくるね。それ着といて」
シャッとカーテンを閉められ、手元の服の値札を見る。全部で合計10万ぐらい。先輩って消費家?いっつもこんな服着てんの?もう、ほんと勘弁してよ。俺奢られるのあんまり好きじゃないし、ましてやこんな値段ありえないから。自分でも払えないし、着るだけ着て、気に入らないって突っぱねようと、仕方なく手元の黒スキニーを手に取った。
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