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第13話
「はい、これね。鍵」
忙しくて渡す暇がなかったと、電車の改札口で降ろされ渡される。勝手に取られたと勘違いしていた自分が恥ずかしい。その時は被害妄想をする自分が情けなくて先輩の顔を見れなかった。
「もしかしてあんまり乗り気じゃない?」
電車に揺られながら、先輩から話しかけられても「うん」とか「そう」とかしか返してなかった俺を心配そうに覗き込む。乗り気じゃないのは元々だけど、今は罪悪感で見れないだけだ。
「いや、別に」
だからといって、楽しみですなんて言えるはずもなく、可愛くない返事だとは俺も自覚してるが、この単語しか出てこない。それから沈黙も続くから心配になってちょこっと先輩を見ると、こっちを見ていた先輩と目が合う。
「あ、やっと目が合った」
嬉しそうに頭を撫でる先輩に嵌められたと思いながら、少しだけその空間が軽くなる。この人は人の心を軽くする天才なんじゃないかな。
「何時集合なんですか?」
「えっとね、あと5時間後」
「......はい?」
5時間後?いや、なんで俺起こされたの。
「デート行くって言ったでしょ、5時間しかないけさ。みんなと行く前に2人でどっか行こう。行きたいとこある?」
「先輩は?」
「うーん、初デートだし、水族館とか、映画とか?」
「じゃあ、それで」
どこいきたいとかあるっちゃあるけど、遊園地とか動物園いきたいとか、言ったら子供みたいって笑われそうだし。水族館とか映画も行ったことないから楽しみなのは変わらない。
「ほんとにいいの?それなら観たい映画あるからそっち行っていい?」
頷けばお礼を言われて、肩を引き寄せられる。電車の中だぞ、ここ。少し視線も感じるし、離してほしい。少し俯いていると、目の前の夫婦が小さく笑っている。
「うふふ、美男美女ねぇ。私もあんな時代があったわぁ。あの女の子、私みたい」
「お前、あんなに可愛くなかっただろ。それに、あっちの彼氏は俺に似てるしな」
そんな会話が聞こえたあと、少し言い合いをしていたが、好き好きと言い合って仲直りしていた。意味がわからん。
それより、他の人から女に見えているのがちょっとショックだった。もしかして、ピンクを選んだのも女の子みたいだからかな、なんて。落ち込んでる俺に気づいたのか、先輩は少し肩に置く手の力を強めた。
ポンポンと肩を叩かれ、心配してくれる先輩の思いやりだけが、壊れそうな心を繋いでいた。不安な気持ちが先輩の手を見ていたが、自分の手をそこに近づけることはなく、数秒見ただけですぐにまた目を逸らした。
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