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第14話

 「はい、チケット」  いつの間にか買われていた2枚のチケットにお金を出そうとするが、いらないと断られる。でも、俺奢られてばっかりだし、流石に申し訳なさすぎる。しょんぼりしていると、「じゃあ」とポップコーンを指す。  「これ、奢ってくれる?」  困ったように微笑む先輩に、わかったと頷き、キャラメルか塩かどっちがいいと聞く。キャラメルと答えたから、そっちを買ったが、キャラメルポップコーンってどんな味なんだろう。あんまりお菓子とか買わないから、食べたことがない。塩の方は1度あるけど。  「灰人は、うーん、こっち。」  座らされたのはスクリーンの真ん中に近い方。さり気ない優しさを感じながら席に座る。先輩側じゃない右隣の席は、優しそうな女の人が座っていた。よかった、怖そうな人じゃなくて。追加で買っていたジュースを飲みながら、初めてスクリーンを見るが、画面でかすぎだろ。マジマジと見つめていると、人差し指でつんつんとつつかれる。  「灰人くん、口開けて。ほら、あーんて」  「え」  灰人くん、灰人くんとからかうように名前を呼ばれ、左を向けばポップコーンを口元に近づけ、俺が口を開けるのを待っている高良先輩。いくら映画館の中が暗いからといっても、先輩の顔は近いから十分見える。周りもうるさいから誰もこちらを気にしてないが、気恥しさでちょっとしか口を開けれなかった。  「口開けないならキスするよ」  「は、やだ」  おずおずと口を開けば、ひょいっとポップコーンを入れられる。もぐもぐと食べると、甘い味が下に伝わってほっぺが痛い。つまり、無茶苦茶美味い。  「......もう1個」  そう言って口を開けば、少し驚いたような顔でこちらを見つめてくる。そんな先輩に首を傾げるが、すぐに2、3個口に入れてくれた。こんなに美味しいの久しぶりに食べたかもしれない。  今度からこれたまに買おう。先輩から貰って食べるより自分で食べた方が早いことに気づき、パクパク自ら掴み食べる。先輩は全然食べないが、俺に遠慮してるのだろうか。こんなに美味しいのに。  「先輩、口開けて」  お返しにと口にポッコーンを持ってきたまではいいが、目を見開いて口を開けてくれない。俺には開けろって言ったくせに。  「口開けないならキスしますよ」  さぁ、早く口を開けろ。俺も美味しいのをあげるから。やっと口を開いたと思ったら顔の目の前まで先輩が来て、後ろ髪を触られた瞬間、ぐいっと引かれる。そのまま口に唇が触れ、すぐに離れた。  「さ、さいてー......」  信じられないと口を抑えれば、震える声で先輩が「勘弁してよ......」と前髪をかく。  「今のは灰人が悪い」  そう言ってまた近づいてくる顔に、なす術なくキスされた。  

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