15 / 55

第15話

 気まずい沈黙の中、離れた唇から目を背ける。王子様のキスはキャラメルみたいに甘くて舌が蕩けそうになるが、先輩は平気な顔でいる。俺だけが翻弄されていて悔しい。  ぐぬぬと握り拳で力を入れていると、フッと辺りが暗くなる。映画が始まるようだ。  案の定、スクリーンから物語が紡ぐれていく。そういえば何の映画だっけ。聞いてなかった。  それから数十分後、何やらグニョグニョした人間らしきものが出てきて、暴れて物を壊したり、人を襲ったり。なにこの映画、失敗作だろうか。  「あれ?意外と平気なのかー。残念」  あとから知ったホラー映画とやらは、俺にとってよく分からないものだった。ただ、黒い塊が動いていただけの物語。途中から眠くなって寝てしまったが、最後はバッドエンドで終わったらしい。愛した人に裏切られ、鬼に取り憑かれた男の悲しい話。最期は愛した人の腕の中で生涯を終えたとか、なんとか。  「幸せだったんじゃないですか、好きな人に看取られたら」  「えー、俺は結ばれる方がいいけど」  先輩の言葉は、ひどい矛盾を抱えていて、それに本人は気付いていない。結ばれるってことは愛し愛されるってことだから。  映画を見終わった後、次の集合場所までの繋ぎにカフェに入る。朝ご飯兼昼ご飯と言って入ったけど、正直キャラメルポップコーンでおなかいっぱいだ。それでもサンドイッチを頼み、ひとつ食べ出すと意外とお腹が空いていたのか全部食べれた。  そうやって先輩と映画の感想を話しながら、次はスコーンを頼む。食いしん坊とかそんなのではない。  「怖いって縋り付いて来るかなって期待してたんだけどなぁ」  「そんなみっともないことしませんよ」  「ここに来るまでに俺に抱っこされて嬉しそうだったくせに?」  「なっ」  断じて、嬉しかったというわけじゃない。ただ恥ずかしかっただけだ。そこを訂正すれば「はいはい」とあまり相手にしてくれない。最悪。ワタワタする俺を見て楽しそうな高良先輩は本当に意地が悪い。    

ともだちにシェアしよう!