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第17話
約束の5時間後になり、俺と先輩はカフェを出る。さっきより更に暗くなっていて、刻々と色濃く塗られていく茜空を歩きながら見ていた。これからクラスとの人達と会うものなら、もう少し2人でいたかった。
「あ、先輩だっ!みんな来たよっ」
一回り大きい集団の中で、一人の女の子がそう言って先輩に気づく。その声でほとんど全員がこちらに振り向き、かっこいいだの、オシャレだの、男女に関係なく悲鳴をあげて喜んでいる。俺はというと、先輩の邪魔にならないように、少し遠くで人混みに紛れていた。みんな元気の塊だから、ついていけないし、俺がいると白けるし。
先輩が俺の名前を呼んだ気がしたけど、そのまま離れながら集合場所に近づく。誰も俺の存在に気づいていないようだが、帰ってもバレないんじゃないか。
「......佐倉?」
聞き覚えのある声に振り向けば、爽やかに笑う本郷がいる。なんだ、お前も来てたんだ。先輩に劣らず、負けずのコーディネートに羨ましくなるが、彼らが着るから似合うのだ。俺には到底似合わない。
「そういう服着てるの意外だけど、似合ってんぞ」
嫌味に聞こえる台詞に舌打ちしそうになるが、先輩にも同じこと言われたような気がする。前はこんな風に思わなかったっけ?電車の夫婦が女の子と言っていたからか。ピンクの服を褒められたような気がしたからなのか。それとも先輩だけが特別なのか。
「みんな行ってんな、俺らも行くか」
俺の手を取り、歩き出す本郷に先輩の後ろ姿が重なった。強引な所は少し似てる。ただ、その強引さの度合いはやはり違う。振り払えばすぐに離れてしまうぐらいの緩さ。
「一人で行ける」
「お前は迷子になるだろうが」
ならないし、迷子って子供じゃないんだからと、小さな抵抗をしながらも、通りすがりに小さな子供が母親と手を繋いでいるのを自然に目で追う。嬉しそうに風船を持って夜ご飯について話している姿は俺には経験したことがないもの。
本郷の腕を見ては、何となく振り払えないままゆっくり歩く。本郷もみんなの元に行けばいいのに、集団から1歩遅れた場所で歩いている。俺が集団行動が苦手なことを知ってか、単に走りたくないのか、それは分からないが、触れられる手は安らかで気持ちいい。
「あいつと仲いいのか」
「あいつ?」
「高良先輩」
付き合ってます、なんて言えないし、なんて言えばいいのだろう。
「普通」
無難な答えを選べばそれ以上追求はしてこなかった。元より興味もないのか、こちらを1度も見ない。俺と先輩が仲良かろうがそうでなかろうが、本郷にはどうでもいいんだろう。
込み入った人混み。夕焼けの明るさに混ぜこまれた薄い電灯の光。ごちゃごちゃな温度に、行き交う人の足音。全てが少しずつ俺に含まれていく。どこかで見たいと願った記憶に埋め込まれていく。
その時先輩がこちらの方を見て睨んでいたのを、俺には知る由もなかった。
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