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第21話

 「てめぇ、嘘ついただろ」  乱暴に扉を開けたのは先輩で、少し怒り気味だ。走ったのか、汗で張り付いた髪の毛からは、雫が滴り落ちている。  「あはは、ばれた?」  頭をかき、舌を出すその仕草は可愛いが、こめかみを引くつかせて拳を握りしめる先輩には逆効果かもしれない。とりあえずこの場から出ようと先輩の腕を引っ張ると、ピクっと震えた体は素直に俺の言うことを聞く。  「ご飯、食べるよ」  険悪な雰囲気は最後までなくならなかったが、何とか2人を引き離すことは出来た。そう言えば名前を聞いていなかったけど、先輩の同級生だろうか。クラスにいたら気づくだろうし、きっとそうだ。納得しつつ部屋から出たものの、現在地がわからない。とりあえず、辺りから歌う声や、お店のBGMは流れているから、カラオケ店にいるのは分かる。ウロウロしていると、先輩が俺の腕を掴み、「こっち」と引っ張る。  「俺もそっち行くから」  「え? どこ」  「カラオケのルーム。お前のルーム、あいつと一緒だったから。ていうか俺から離れないでね、さっきみたいに」  次第に声音は落ち着いていき、いつもの先輩が微笑むが、腕を引く力だけは少しだけ痛い。迷子になるんだからと、本郷みたいなことを言っては、さっき先輩にキスされたトイレまで辿り着く。先輩に触れられた口の中が疼いて、掴まれた腕から無性に離れたくなった。  先輩も、手から逃げようとする俺に気づいて、少し歩幅を緩める。完全に止まったと思えば、背中にぶつかる俺を抱きしめ、首元に唇を這わせる。生温い感触が首をなぞるたび、体か震えた。  「白いから目立つかなー・・・・・・」  リップ音が響き、ピリッとした痛みに顔を顰める。近づきすぎた距離は、傍から見ればただの友人には見えない。トイレの中ならともかく、外だ。誰かが来たら確実に見つかってしまう。そんな緊張感の中で。  「ん......っ」  また首の一点が引っ張られ、その上から舐められる。  「2個でいいや」  また腕を取り歩きだした先輩を見ながら、反対の手で首元を押さえる。じんじんとする肌を触れば、少し濡れている。あぁ、もう、スキンシップが多い。俺には多すぎる。  「いつも恋人にこんな感じなんですか」  皮肉を交え、そう問えば、一瞬きょとんとして、何を言っているか分からないと言うかのように首を捻る。  これが普通すぎて俺の普通が分からない先輩。それとも世の中の恋人は毎日こんなことをしているんだろうか。触れ合って、キスをして、恥ずかしくて、それでもどこか心地よくて。先輩の意外な一面も見たが、それも嬉しくて、嫌だと思うのにどこか矛盾した自分がいる。  カラオケルームに入る前に見た窓の外は夜の灯で満たされている。いつも以上に明るい外は、花が咲いたみたいに華やかだった。

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