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第22話

 どこかふわふわとした足取りでいると、先輩が1つの部屋に手をかける。開けて入ったそこでは、熱唱しながら踊るクラスメイトがいて、最初はこちらに気づいてなかったが、誰かが気づくき声を上げると、驚きの声があちこちであがった。  「先輩、こっち座ってくださいよ」  先輩だけを引っ張り、座らせようとするのは本郷と仲のいい久瀬 陽太(くぜ ようた)。本郷に声をかけられれば大抵こいつに睨まれるし、多分、すごく嫌われている。  「あー、うん」  気力のない返事をし、先輩はそちらに向かう。俺の手を離さないが、そっちに行けば久瀬が嫌がるから行きたくない。  力を入れて振りほどき、距離をとると、ムスッとした表情でそのまま座る。それから久瀬達と話す時は笑顔なのに、俺のいる方は全然向いてくれず、ずっと無視されていた。自分のいる空間だけ、空気の密度が重くなったように感じ、頭があげられなかった。  「佐倉、こっち座れば?」  さっきまで座っていた場所に、空きを作ってくれたのは本郷で、いいと断るけど、グイグイ引っ張られて座らされる。少しギュウギュウだったが、一応2人とも座れた。  「なんか頼む?って言うか、ドリンク適当に持ってきたんだけど、炭酸飲める?」  「うん」  たった今入れたかのようにシュワシュワと泡立つ気泡は、何故かみんなより多くあった。それに量もかなりギリギリまで入れてある。零しそうだ。  四苦八苦しながら飲み進めていると、「なぁ」と何か言いたげな本郷がこちらを見る。  「さっき......」  ごにょごにょと口を動かし言い淀むが、言いたいことがあるならさっさと言ってほしい。  「......あ、いや、首元赤いけど、どっかぶつけたか」  とんとんと、俺の首を指し、場所を教えてくれるが、先輩とは違う触れるだけの指がこしょばゆくて、「ん」と首で本郷の指を挟む。モゾモゾと動かされるから、笑いをこらえるので必死だった。  「はは、本郷、くすぐったい」  腕を掴み、首元から離せばどこか顔の赤い本郷が、俺を見てほおけている。じっと見られる視線になんだよと、眉を顰めると慌てたように目を逸らした。  「笑った顔初めて見たな、と」  口元を抑えて俺に背を向けると、ピコピコと機械を弄って曲を入れて始める。初めてって、俺そんな笑わないっけ?......分からない。  それから本郷は考え込む俺の方を向くことなく、ずっと歌って盛り上がっているが、さり気なく俺にマイクが渡らないように上手く立ち回ってくれていた。

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