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第23話
それから先輩と話さないままカラオケは終わる。はしゃぎまくったクラスメイト達は、憧れの先輩方と離れる機会を逃すはずもなく、解散ムードにならないままダラダラと話し始めた。早く帰ればいいのに、とボヤく俺は多分、こちらを見ない先輩の態度が気に入らなかったからで。
あとからもう1つのルームの人達と合流し、公園で遊ぶことになるが、そこに長時間いる俺でもない。なんだかしんどいし、足取りは重いし、頭は痛いし、俺といる時以上に笑っている先輩に腹が立つし。
先輩を遠くから見つめていると、よく分からないモヤのかかった感情に邪魔されて息苦しい。先輩を放って帰ってきてやった!って、踵を返して歩いてきたけど、実際は、俺が放られて拗ねているだけだった。
「先輩、今度遊びにいきましょうよ」
「いいよ。いこっか」
久世と先輩の話し声が遠ざかる場所からでもはっきり聞こえた。二人で遊ぶ約束をし、一緒に歌う彼らは、どこからどう見ても仲がよかった。俺なんか入る隙もないくらい、むしろ邪魔な存在で。先輩後輩なんて分かってる。分かってるけど、それが少し、ほんの少しだけ、寂しかった。
久瀬達と話している時は、すごく楽しそうな顔をしている。俺にはあまり見せない、笑った顔。そんな先輩を見ていると、折角入れてもらった炭酸も酸っぱくて、全部飲めなかった。
ガチャリと家の扉を開け、がらんとした部屋に入る。あんまり物を置かないから、部屋の中にはベッドと机とタンスがあるだけ。それが酷く虚しく、感じたことのないくらいの孤独感に襲われる。今まで居心地のよかった家が冬みたいに寒い。おかしい、今は夏なのに。
ベッドに寝転び、天井を見上げる。何も無いまっさらな壁に光が入り込むことはない。月はカーテンの後ろで隠れんぼ中だ。
ごろんと寝返り打つと、床の上に青く光る何かを見つける。
「......ん?なにこれ」
拾い上げると、それはパズル型のキーホルダーだった。宇宙の模様が書かれた1ピース。こんなの俺は持っていないから、先輩が落としたんだろうか。
とりあえずそれを机の真ん中におき、俺も近くに座る。電気もつけず、暗い部屋の中でそれだけが淡く光る。
「宇宙って、絶対温度じゃなかったっけ」
-270℃。この家より、よっぽど低い温度。人は満足に暮らせないそんな環境、なのに。
「あったけー......」
先輩は持ち物までも温度が灯っている。ストーブみたいに手を近づけて、ほんのり伝わる温度にそっと息を吐いた。
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