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第26話

 チャイムの音がし、反射的に体が玄関の方に向く。扉を開ければ、ビニール袋を持った先輩が立っている。  「そんなすぐ開けて不用心だなー。ちゃんと確認してから出なよ」  「こんなボロアパートに先輩以外こないだろ」  一応インターホンにカメラはつけているが、今日は先輩が来るって分かってたし。いつもなら確認しているから大丈夫だ。  「前来た時なんて鍵もかかってなかったからね。危なっかしい」  「え、ピッキングしたんじゃ......」  「は?」  なんだ、俺の鍵のかけ忘れか。逆になんでそれが真っ先に思いつかなかったんだろう。訝しげな目で見てくる先輩に部屋を案内すると、前に来たことがあるのに関わらず、特に面白気のない部屋をキョロキョロと見渡している。  「灰人って、ミニマリスト?俺、テレビないと部屋で暮らせないくらいなんだけど。いつも何してんの?」  「何もしないけど、寝たり?」  そう言えば、よく分からない顔で俺を見つめる。哀れみのような、違うような。  「寂しくなったらいつでも俺のこと呼んでね」  ポンポンと頭を叩かれ撫でられ、それから抱きしめられるから、戸惑ってしまった。先輩のこういう所、すごく心地よく感じる。ふわふわのベッドみたいな、陽だまりの匂いがして。  少しだけ顔をすり寄せると、先輩の力も比例して強くなった気がする。俺の名前を呼ぶ声が優しい。  ゆったりとした時間が流れて、それから先輩の手が離れていく。もう少し撫でていてほしかった、なんて思う自分に気づいて恥ずかしくなった。顔が熱くて先輩の方を見れない。  床の木目に目線を逃がしていると、何かに気付いたように近くの俺の部屋に入った。  「これここにあったんだ」  テーブルの上にあるパズルのキーホルダーを指さし、そちらへ体を向ける。青いだけのそれに、手のひらサイズの影が曇る。  「これ本物のパズルの1ピースなんだ、今作成中の。穴開けてキーホルダーにしてもらった」  “趣味はパズル”と書かれたさきほどの記事を思い出す。パズルより、音楽とかの方が好きそうだと言えば、「よく言われる」と返される。  俺にそれを渡し、床に座る。カーペットも買ってないし、ソファも買おうかなと思いながら、パズルを見ていると、こちらを見ていた先輩と目が合う。  「なに?」  「えっと......それいる?」  「なんで?」  「なんでって、灰人が大事そうにもってるから?」  大事そうって、普通に持ってただけだ。別にいらないと胸に押し付ければ、渋々受け取られる。第一、俺が持っていればパズルは完成しない。  そう思って渡したのに、先輩の顔は困ったように笑っていた。俺といると、こんな顔ばっかりだ。

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