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第27話
「灰人、こっちおいで」
あぐら座りをして、太ももに座れと自身のそれを叩いているが素直に頷けるわけもない。嫌だと頭を振れば、腕を引っ張られ抵抗が無駄だと知る。どうにでもなれと力を抜いたのは、そうされるのを望んでいたからなのかもしれない。
諦めが漂う俺の髪を弄り、くるくると回して遊ぶ。時々ふっと耳に息を吹きかけるのはやめて欲しいが、楽しそうにしている先輩に水を差すことも言えない。度々来る風にビクッと体を揺らしていると、笑いながら撫でられる。時々耳にあたる手にすごく落ち着いた。
「こういう時、すごく思うよ。可愛いなって」
「かわ......?どういう時?」
「小動物みたいに擦り寄ってきてるとこ。素直になれない子が素直になる時?」
爽やかに笑って俺の頬に優しく触れる。その手に頬を寄せると、「こういうとこだね」って親指で目の下をなぞった。その手つきに気が緩んでつい口が滑る。
「先輩は、俺のこと好き?」
自然と出た言葉がそのまま自分自身に返ってくる。俺はどうなんだと手を握りしめ、馬鹿なことを聞いたと思いながらも、先輩からの返事を待つ。ほんの1秒ほど。なのに彼の口が開くまで、スローモーションで流れた気がした。
「うん、好きだよ」
動き出した世界で乾く即答の返事。変わらない表情と少しだけ上がった口角。違う、先輩の“好き”は俺の欲しい“好き”じゃない。
「......そっか」
それに、初めて好きだと言われたのに全然嬉しくなかった。寧ろ胸が痛くて張り裂けそうで。俺たちの関係は、好きだと言われたところで何も変わらない。なのに俺が伝えれば強制終了のゲームオーバー。3ヶ月という期限付きの一生クリア出来ない無理ゲー。
「...俺は、まだあんまり好きとか分からないかな」
そう言えば、先輩に頬を抓られる。「生意気」と言って笑うこの人は今何を考えているんだろう。俺が好きだと伝えたら、なんて俺を振るのかな。“飽きちゃった”って俺もあの女の子みたいに泣くのだろうか。
本当は少し灯り始めているこの想いに鍵をつけて、先輩に向かって「いひゃい」って微笑んだ。
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