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第30話

 先輩の方に来たのはいいものの、周りに上級生らしき人が2人いて近づけない。大量にピアスを開けて、金髪にしたチャラそうな人。もう1人には、カラオケであったあの美人もいる。  本郷から見えないとこまで走り、そのまま1人で校門をくぐる。楽しそうに話しているけど、友達なんだろうか。 ◇  「もうすぐ夏休みです。記載された注意事項を守り、有意義な時間を過ごしましょう」  担任がそう言ってプリントを読みあげる。今は空き授業を使って夏休みの心得について説明しているところだ。まりものようなキャラクターの吹き出しを見ながら、顎に手を置く。バイトはしないこと、タバコを吸わないこと、それからネットがどうたらこうたら......  人に迷惑をかけてはいけませんと、書かれたそれに、俺は関係ないかとプリントを折る。人に迷惑をかけるというのは、人に関わることが前提にあるわけだからだ。ただ、今の俺には先輩がいる。彼に迷惑をかけないようにだけは注意しよう。  ちなみに夏休みが始まるのは明後日で、期間は1ヶ月くらい。夏休みが終わればすぐに文化祭があり、それが終わったら丁度先輩と出会った日から3ヶ月だ。  「......くん、佐倉くん」  俺を呼ぶ声に肩を揺らされる。  「高良先輩に呼ばれてるよ」  知らない女の子に顔を上げ、いつの間にか居眠りしていたことに気づく。またかと、扉の方を見れば、同クラスの子に囲まれている先輩がいる。嬉しそうに笑っている先輩の隣には、女の子達がいて、お似合いの組み合わせに、背徳感が湧いた。  「灰人、お昼一緒に食お」  ちょんちょんと指を曲げ、俺の名前を呼ぶから、周りの子達の視線が全てこちらに向く。好意的でない視線も中にはあり、何も分かっていなさそうな先輩に苛立ちより諦めがくる。絶対教室には来るなと言っておこう。1回やったら2回も同じだというが、好奇な視線に晒されることが同じなだけだ。  「ご飯買ってた?」  「栄養調整食品」  廊下を歩きながらチョコ味と書かれたブロックをポケットから出すと、思いっきり溜息をつかれる。  「お弁当持ってきたから、これ禁止。食べ過ぎると体に良くないからね」  取り上げられたそれはそのまま先輩のポケットに消え、代わりにお弁当箱を渡された。きちんと包まれたそれからは美味しい匂いが漂っていて、喉がなるのは、お味噌汁の味が忘れられないからだろう。  「食べる場所、教室か、屋上どっちがいい?」  俺にとっては一択でしかない選択肢に「屋上」と答えれば、わかったと頷かれる。教室なんて誰が行くか。

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