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第31話

 歩くだけでジメジメとした暑さが身体中にまとわりつく。俺は暑さに強い方だが、今日はいつもより格段に暑い。屋上はもっと暑そうな気がするから、やっぱり教室の方がよかったか。  汗をかく俺に比べ、先輩は全くと言っていいほど汗をかいていない。暑そうにすらしていない。寧ろ、彼からは汗の匂いより、爽やかな蜜柑の匂いがしていい香りだ。  匂いを嗅いだり、先輩をチラ見したりと、かなり先輩を意識している。変態みたいだから止めようと、少し離れると、すぐに誰かが先輩に声をかけた。少し背が高い、朝先輩と登校していたチャラい人。  「高良、珍しいな。お前が後輩と2人きりなんて」  肩に腕を回し、先輩と話し始める。ちょっと距離が近くないか?と、眉をひそめたけど誰も気づかなかった。  「この後輩ちゃん、なんて名前?」  「なんだよお前、いつもなら声かけないくせに」  「いやぁ、可愛いなぁって」  また女の子に間違えられてるのかと、小さく溜息をつくと、その人が俺の身長に合わせ屈む。近くに来た顔は、かなり整っているが、ピアスや、髪のせいか、苦手意識を持ってしまった。少し顔が引きつってしまったが、気づかれただろうか。  「高良と仲いいの?」  そんなこと聞かれても分からない。第一、仲の良さで言うなら俺より他の人の方がいいはずだ。俺はたしかに先輩の恋人だけど、思い思われの関係じゃないから。  「どうでしょうね」  分からない、と首を傾ければ、チャラい人は笑い始める。おかしくてしょうがないみたいな引き笑いに、酸素不足に陥るのではと少し焦るほど。  何に笑っているのか全く分からなくて、後ずさる。先輩とは違うベクトルで怖い。  「ね、連絡先交換しない?」  笑いを止め、ひぃひぃ言いながらスマホを取り出すと、先輩の顔が曇る。先輩の表情が分かるのは、俺がチラ見しているからだ。  「無理」  先輩がそう答えると、その人は残念そうに「ちぇっ」とスマホを戻す。  「名前だけ覚えといてよ。弓野 斗真(ゆみの とうま)ってゆうから。高良とは幼馴染なんだ。聞きたいことあったら俺のとこまでおいで」  「弓野さん?」  「硬いなぁ、斗真でもいいよ」  流石にそれは無理だと、弓野さんでお願いしますと言おうとする前に、先輩が俺を引いて歩き出す。  それを見ながら弓野さんは、俺にバイバイと手を振って、口パクで何かを言った。まえまえ?ダメだ、全然分からない。気にはなるが、戻って聞きたいとも思わなかったので、そのまま手を振り返すことさえせず、ズルズルと先輩に引きずられた。

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