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第33話

 学校が終わり、家まで送ってくれた先輩は夜ご飯まで作ってくれた。今日は肉じゃが。すごく美味しかったのに、先輩はご飯を食べては帰らなかった。お腹がいっぱいだと言っていたが、昼ごはんもそんなに食べていなかった気がする。だって俺に渡した弁当を少しつまみ食いしたぐらいだから。  「先輩、体調悪いの?俺、お粥くらいなら作れるよ」  「お粥?いいね。灰人の料理食べてみたいな。夏休みぐらいに食べさせてよ」  「先輩、だから......」  「じゃ、また明日ね」  俺の言葉を遮り、手をヒラヒラさせて先輩の後ろ姿を見送る。  「怪しい......」  顔色は良さそうだったから、今すぐどうこうって訳じゃないが、俺にも心配する権利だってあるのに。それすらさせてくれない先輩が、もし本当に体調が悪かったら、かなり意固地だと思う。  重い足取りで部屋まで戻ると、机の上のパズルに気づき、返したよなと持ち上げる。そういや、今日の朝も見たような気がするが、普通に素通りしていた。明日返そう。  ぼんやりしながらベッドに座る。服を脱ぎ、薄い布団を巻き付けた。  暗い部屋を見渡していると、スマホから着信音が流れる。急いで手に取るが、送信先が精神科の先生からだと知り、一気に気持ちが下がった。先輩だと思った。  「......もしもし」  「あ、佐倉くん?久しぶりだね、元気かな?」  約1年ほど空いたこの人との会話に、懐かしさを感じる。名前はなんだっけ、と頭から絞り出そうとするが思い出せない。ただ、喋り方ぐらいは覚えていて、高い抑揚で話し始めるこの人は、昔と全く変わっていなかった。俺とは正反対な明るさを持つ彼が、初めて見た時から苦手で、それは今も変わっていないのだと、声を聞いていて思う。いつも笑顔で、俺が何をしても笑って許してくれるのに、それがなんだか怖くて。  「元気」  「そっかぁ。良かった。学校生活はどう?もう慣れた?」  「うん、苦手な人もいるけど」  この人には、嘘をついてもすぐバレる。初めてあった5年前も、すぐにバレてしまった。正直に話すことだけに関しては厳しく言われたので、この人に隠し事をしたことはそれ以来ない。  「なんで苦手なの?」  苦手な人というのは、久瀬のことで、「俺のことが嫌いだから」と答えると、先生が唸る。  「なんで、その人が佐倉くんのことを嫌ってるって思うのかな?」  なんで、なにが、どうやって、誰が、いつ、どこで、と5W1Hを徹底しているのはこの先生。疑問があったら問いなさい、と、最初に言われたのがこの言葉。それは、俺の話し方の中心にもなっている。

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