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第36話

 最後に一言書かれていて、思わずそれを読み返す。  「先輩との嬉しい報告をお待ちしております......」  やっぱり気づいていたか、と舌打ちを鳴らし、スマホの電源を落とす。いつも笑顔の割には鋭いし、見逃してくれないし、怒ると怖いし。やっぱり苦手だ。  適当に終業式を過ごしていたら、いつの間にか終わりの挨拶に入っていてかなり熱中して読みいっていたことに気づく。近くにいたクラスメイトに変な顔で見られていたことには気づかなかったが、久瀬に睨まれたことには気づいた。俺と、久瀬の出席番号近いから。  体育館を出て教室に戻る途中、先輩に呼び止められる。勝手に先生に先輩のことを相談したからか、少しだけ後ろめたかった。  「今日もお弁当作ってきたんだけど、もしかしてもう帰る?良かったら一学期最後の昼ごはん、屋上で食べない?」  「食べる」  美味しいご飯に罪はない。作ってきてくれたのなら是非食べたい。現金なヤツだとは思いながら、2度頭を縦に揺らした。今日はなんだろう、楽しみだ。  弁当のメニューは何だと聞こうとした瞬間、グイッと誰かに肩を押され、体が傾く。  先輩がきちんと受け止めてくれたので、転げはしなかったものの、少し視界がぐらついた。  「あ、わりぃ」  ぶつかってきたのは久瀬で、隣には本郷もいた。絶対わざとだろ、と疑ってしまった自分は、かなり心が汚いらしい。謝ってもくれたのに、心の中では静かな怒りでいっぱいだった。  それでも、先輩からの大丈夫?という気遣いだけで、そんな気持ちが消えるんだから単純だ。  「何してんの?2人で」  久瀬に初めて声をかけられたなと思いながら、少しだけ違和感に気づく。この人ってこんなに笑うっけ。  「お昼、一緒に食べようって話してたとこ」  「へぇ、仲いいんだ。意外だわ」  やっぱり少しだけ、刺がある気もするような、しないような。ただ、いつもみたいに俺を嫌悪するような顔はしなかった。むしろ、安心したような表情で俺を見るから、居心地が悪い。こんな久瀬は見たことがない。  先輩と仲がいい俺は、久瀬にとって都合がいいものらしい。人気者の先輩とご飯を食べる俺は、なにか違う格付けなんだろうか。  「もうすぐホームルーム始まるし、お前も行くだろ?」  「え」  「は?いかねぇの?」  「い、一緒に?」  久瀬が俺を誘った。なんだこれ、夢なのか?ほっぺを抓ったが普通に痛い。そんな俺を見て、久瀬が何してんのって笑っている。  「じゃあ、俺は屋上で待ってるよ」  また後でね、と先輩と別れた。

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