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第37話
酷く混乱しながらも、教室まで普通に帰ってきた。担任からの長い挨拶はめんどくさかったが、俺は久瀬の方ばかり見て全然聞いていなかった。嫌われてるって思ってたが、勘違いなのか、それとも今日はたまたま機嫌がよかったのか。
ホームルームが終わり、解散ムードになると、ぼーっとしていた俺に久瀬が近づいてくる。顔の前で手を振られ、はっと気づけば寝てたのかと、笑われ、その笑顔になんとも言えない気持ち悪さで身震いした。
「ちょっと話あんだけど」
「今?」
「いや、もうちょい人いないとこで」
話すことなんて何も無いだろと不服ながらも連れられたのは校舎裏で、人気のいない所に着くと段差に座らせれる。辺りを少し見渡し、誰もいないことを確認するとその隣に久瀬も座った。
なのに話があると言った張本人が話出さないから、気まずい沈黙が流れる。俺から聞いた方がいいんだろうか。
「話って何?」
「あー......」
何かを躊躇っているのか、なかなか言い出さない久瀬にクエスチョンマークが飛び交う。話があるなら言えばいいだろうに。それから、少し時間が過ぎて、久瀬は決心したように口を開いた。
「高良先輩と付き合ってんの?」
「え」
全く予想していなかった方面からの質問が来て、思わずフリーズする。
「お、俺が男なの分かってる?」
「カラオケの時キスしてただろ」
「な......っ」
なんで知ってるんだと言おうとしたが、口が空いただけだけで、正直驚きすぎて声もが出ない。そりゃそうだ、あんな場所で誰にも見つからないわけがない。一応、それから付き合ってないと小さな抵抗をするが、正直に言えと迫られて、なす術もなく頷いてしまった。流されやすいな、もう。
気持ち悪がられるのかなとか、明日になったらクラス中に広まってるんだろうかと考えていると、久瀬はよかったと、心配とは逆に胸を撫で下ろしていた。
「佐倉は本郷のことが好きなのかと思ってた」
「は?友達ですらないんだけど」
そう言えば、同情したような目で見られる。
「お前、本郷にあんなに可愛がってもらってるくせによくそんなこと言えるな」
大きく溜息をつかれ、軽く頭を叩かれる。なんで叩かれなきゃいけないと睨めば、久瀬もいつもみたいに睨んでくるから、体が竦んだ。今気づいたけど、久瀬って睨んでなくても、元より目つきが悪い。そんなんだから、睨まれるとさらに怖く見える。
「お前、一々言葉にしないとタグ付けも出来ねぇタイプだろ。友達になろうって言わなきゃ、友達になれないとか幼稚園児かよ」
はんっと鼻先で笑われて、なんだか無性に腹が立つ。いつもなら言い返さないが、今日はすごい反抗したい気分だ。
「久瀬だって俺にだけ冷たいし、本郷に話しかけられた時とか睨んでくるし、友達取られたくなくて駄々こねてる子供みたいだ」
「は?」
ふざけるなと首襟を掴まれ引っ張られると、久瀬の拳が鎖骨に当たって痛い。顔を歪めて、離してと言うと、そのまま地面に投げられる。
「......った」
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