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第38話

 肘を強く地面にうち、少しだけ血が出る。久瀬がこれから俺に何をするのかが、分からなくてただただ怖かった。これ以上何かを言えば、殴られそうだ。  「俺が子供?笑わせんなよ、そんなの俺が1番分かってんだよ」  「え?」  一瞬何を言っているのか分からなくて顔をあげると、苦渋を飲んだ顔をしていて、俺の方が痛かったのに、久瀬の方が痛そうだった。  「大丈夫?」  「お前にだけは心配されたくねぇ」  泣きそうな顔でそういうから何も言えなくなってしまった。俺のこと嫌いじゃないのかも、なんて、そっちの方が勘違いだったみたいだ。敵意溢れる眼光からはとてもじゃないが、いい感情を感じられない。  久瀬はどうしたいんだろう。俺を呼び出してなんの話をしたかったんだろう。先輩と俺が付き合ってるのか聞きたかった?いや、違う。  「久瀬は、本郷のことが好きなの?」  至極当然のように舞い降りてきた答えは、そのままするりと口から出た。また変なことを言ってしまったかと、久瀬をみると、赤い顔をして手で口を隠しているから分かってしまった。好きなのだ、友達としてではなく、恋愛対象として。  「......普通に友達として」  俺もそんな風に答えるだろうなと、久瀬と自分を重ねる。似た者同士のような気がして、同族嫌悪のようなものが襲う。久瀬を見ていると、俺を見ているようでなんだか苦々しい。  「付き合えばいいのに」  自分で言っておいて、しまったと思った。これじゃ完全に嫌味だ。  焦る俺とは対照的に、久瀬は無理だな、って自傷気味に笑う。その顔が、俺の罪悪感にトドメを刺し、数秒前の自分を呪いたくなった。  「あいつ、好きなやついるから」  「誰?」  「教えるかよボケ」  そうやって無理やり笑うから何も言えなくなってしまった。  「お前は高良先輩とずっと付き合っておけばいいんだよ」  この時は言葉の裏腹に気づかず、てっきり応援でもされたのかとぎこちなく頷けば、久瀬は目を伏せた。

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